いざ睡眠不足で事前検診へ【第二章 初めての治験、その前に】

薬を飲むだけの怪しい高額バイト、その名も「治験」。まだ開発段階の「新薬」を飲みまくり、採血の連続。そんな治験歴7年というプロ治験者の日常やいかに? 第7回、いよいよ面接開場へ向かいます。絶食してくるようにという要望をあっさりと破り、八雲さんはアイスコーヒーと共にタバコを吸ってしまいます。そんなことで検査に通るのでしょうか――。好評発売中の『職業治験——治験で1000万円稼いだ男の病的な日常』(幻冬舎)より1章・2章をcakesで特別公開いたします!

 電話を切り、メールを開けると、先ほどの口頭での説明と共に、ユクタビ総合メディカルクリニックの場所案内が載っていた。そこは、駅から徒歩で十分程度の場所にあるらしく、ホームページを見てみるとそれなりに綺麗な病院で十階建ての建物とある。だが、診療科目等を標榜ひょうぼうしているところには、どこにも「治験」という二文字を見つけることはできなかった。隠しているのかそれとも載せる必要がないのか分からないが、これから病院にかかろうとしている一般の患者が治験を行っている病院だということが分からない様になっているみたいだ。病院側も、それなりに気を遣っていることが推測できた。

 私の風体は、いつもは汚い短パンとれたティーシャツに、伸びきった不精髭なのだが、さすがにこれでは、病院関係者の心象が悪くなるだろうと思い、小綺麗に整えることにした。私の精一杯のおしゃれで。

 緑のカーゴパンツに縒れていないティーシャツに上着のパーカー。髭もり、千円カットにも行った。散髪した鏡に映った私は、……、まあ、見苦しくない姿まで回復した。

 スクリーニング前日。石黒から再び電話がかかってきた。明日の最終確認と共に、注意事項を守っているかどうかの確認。絶食の厳守と睡眠を十分に取ることの念を押された。

 スクリーニング当日。夜行バスで新宿駅に到着。石黒の言う、「睡眠を十分に取ってください」との確約は、いとも簡単に反故ほごにしたが、まあ、その責任は私が取るだけで、検査に影響がないことを祈るばかりだ。もとより、夜行性のバイオリズムなので、夜行バスでも影響は少ないだろう。周囲は完全に就寝モードであったために、こちらも眠たくはなかったが、目を閉じ、検査結果の影響を最小限にするべく微力の努力をした。

 朝の新宿駅は閑散としていた。石黒の言った「睡眠を十分に」は守れなかったが、絶食は守っていたためにかなりの空腹状態であった。いつもなら夕食という名の朝食を食べる時間だからだ。集合時間は十時。駅を抜けると、一軒のコーヒーチェーンが目に飛び込んできた。時間を見ると、午前七時少し前。時間をつぶすために私は迷わず入店し、アイスコーヒーを注文した。

「十分な睡眠と絶食を守ってください。検査に影響しますから」

 石黒の言葉をふと思い出したのだが、手持ち無沙汰がつらい。どうせ血糖値を計るだけだから、ガムシロップ抜きならば良いと思ったのだ。喫煙席に移動し、アイスコーヒーと共にタバコを吸う。禁煙も反故にした私。「別に影響ないでしょ」って感じで。

 無意識の内に、フレッシュを入れたまでは良かったのだが、ガムシロップのシールを開けたとき、自制が働き、フレッシュだけのアイスコーヒーをすする。タバコは五本ぐらい吸った。ここまで注意事項を破ると、どれぐらい影響が出るのかが逆に楽しみになってくる自分がいる。

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職業治験—治験で1000万円稼いだ男の病的な日常

八雲星次

薬を飲むだけの怪しい高額バイト、そんな噂を聞いたことがありませんか? その名も「治験」。まだ開発段階の「新薬」を飲んで飲んで飲みまくり……。その薬のデータを取るために採血の連続。そんな治験歴7年、トータル入院日数365日、採血数900...もっと読む

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