ウェブサイトに登録してから五時間後ぐらいだろうか。携帯が鳴った。見慣れない電話番号。いつもなら、知らない番号からの着信は出ない様にしているのだが、なんだか気になり出てみた。それが、今後私がかなりの頻度で入院することとなる病院からのファーストコンタクトであった。
「もしもし、私、ユクタビ総合クリニックの石黒と申します。登録された治験紹介会社様から紹介していただきまして……。早速ですが、今、急にキャンセルが入りまして、一週間後のスクリーニング(事前検査)に参加していただけませんでしょうか。負担軽減費は、五十三万円。二十泊二十一日となっております。事前検査に合格されましたら、五日後の月曜日の午後六時入院。そして、二十一日後の月曜日の午前十一時に退院のスケジュールとなっています。ご予定が合えばと思いまして、お電話を差し上げた次第でして……」
電話口では、
この石黒は、電話してきた経緯や入院期間、日程等は説明したのだが、肝心のどんな薬を飲むのかについては一切語ろうとしない。私の心配事は、金と薬の種類なのだから……。念には念を。変な薬を飲まされ、重大な副作用が出たら本末転倒だ。
思い切って薬の種類について石黒に尋ねてみた。
「スケジュールは大丈夫ですが、どんな薬を飲むのか教えていただけますか」
「……少々お待ちください」
石黒は、少し言葉をつまらせながら、何やら紙を
「お待たせいたしました。えーっ、C型肝炎の新薬ですね」
C型肝炎の新薬……。新型インターフェロンの新薬……。時に肝硬変を起し、死に至る重大な病、C型肝炎。そんなたいそうな物を、健康な人間に投与しても大丈夫なのだろうか。私は素直に疑問をぶつけてみた。
「すみません。C型肝炎の新薬っておそらく注射ですよね」
「はい、……そうなりますね」
「健康な人間にそんな物を投与して大丈夫なのですか」
電話口の石黒は、しばらく間を置いて、自信満々にこう言い放った。
「ご安心ください。新薬といっても、患者さんに投与する量よりは、かなり少ない量です。また、ヒトに投与する前も、動物で何度も安全性を確かめていますし、絶対に大丈夫です。今まで二千件の治験をご紹介してきましたが、
絶対という言葉を使う人間は信用するなと祖母が言っていた。
だが、なるほど、投与する量的には非常に少ないことは分かった。後で調べて知ったのだが、ヒトに投与する前の安全確認とは、犬やチンパンジーに致死量の薬を投与し、その体重から危険ラインを割り出すもの。後、二千件の治験で一件という健康障害もかなりの確率だといえば、それまでだ。二千回の一回でも、その一回が私に当たったら、どうしようもない。スクラッチくじで十万円が当たる可能性よりも十分に高いのだから。
「どうでしょう、ご参加いただけますか」
「……分かりました。大丈夫です」
迷いに迷ったのだが、私の背中を押したのは、