アルバイト情報誌には載らない募集【第二章 初めての治験、その前に】

薬を飲むだけの怪しい高額バイト、その名も「治験」。まだ開発段階の「新薬」を飲みまくり、採血の連続。そんな治験歴7年というプロ治験者の日常やいかに? 第4回は、突発的に仕事を辞めて、2カ月間無職になった八雲さんがどのようにして治験を始めたのか。実は地方在住なのが最初の壁になりました。好評発売中の『職業治験——治験で1000万円稼いだ男の病的な日常』(幻冬舎)より1章・2章をcakesで特別公開いたします!

 仕事を二ヶ月で辞めた私は、「さて何をしようか」と考えていた。だが、これといったアイディアもなく、貯えなどはすずめの涙で、何かをしなくてはいけないと軽くあせっていた。

 そんなとき、五流馬鹿医大生であったアニキが、事あるごとに「薬」のすごさについて語っていたのを思い出した。それが、私が治験の道に入るきっかけだった。

「薬は凄い。病を打ち砕く人類の宝だ。よく考えてみろ。臨床に進み、外科手術をやりまくって、一生で何人の命を救えると思う? 五千人だよ、五千人。それも凄いことだが、新薬は全く違うぞ。けたが違う。五十万、一千万の人の命を救うことができる。俺は将来、基礎研究、創薬に進みたい」と。

 私は、そのことをふと思い出したのだ。アニキの言う薬を創る過程を実際にこの目で見たくなったからである。

 インターネットで、「治験」と文字を打ち込み、検索。すると無数のサイトがヒットした。

だが、その多くは、怪しい紹介料を取るような業者だった。

「高額アルバイト大募集! 日給二万~三万円」

「寝ているだけで楽して稼ぐ! アルバイト情報誌には載らない秘密の募集」

 などとうたっている。後に、これら悪徳業者にだまされた人に会うことになるのだが、結構な数の人が上手い文言もんごんに騙されていることが分かった。被害額は五千円から二万円程度。「高額なアルバイトを紹介するためには会員登録が必要で、そのために口座に金を振り込め」と言われ、従ってしまったらしい。

 これは当然といえば当然で、そのバックボーンには治験に関する正しい情報自体が皆無かいむに等しい現状があるからだ。コンビニにあるフロムエーやアンに治験アルバイトを載せることなどできないからである。

 なぜ載せられないかというと、実態を知るとちゃんちゃら可笑おかしいが、治験はあくまでボランティアということになっているからだ。アルバイトではなく、ボランティア。だから、その報酬も「負担軽減費」となっており、建前上は、個人の自発的意思で参加するものであり、業者による金銭目的の誘導は禁止されているからに他ならない。

 だが、いくらボランティアだといっても数日間、場合によっては数週間、月単位で身柄を拘束こうそくされ、身体的苦痛や副作用の危険性もあることから、それらの負担を軽減するという意味合いでの負担軽減費である。

 どこまで行ってもあくまでボランティアなのだという彼らの認識。事実、このボランティアというキーワードで検索してみると、大手の病院と提携している、比較的真っ当な治験情報会社に辿り着いた。

素人しろうとにも分かる病院と提携し、治験参加をつのる比較的真っ当な治験情報会社とはいっても私はかなり疑っていた。どこかで騙されるのではないだろうかと。なぜかというと、進んで治験に参加する人間は堕落だらくしたタイプの人間が多く、大概たいがいがまともではない。そのまともではない人間は金銭に非常に弱く、騙す側からしてみれば、鴨ネギ状態だと思ったから。だが、私の身近な人間に治験に参加した者など皆無であり、選択肢はなかった。

「金銭を振り込めと言われたら、即中止しよう。それなら被害はないはずだ」

 こう思い、私はまず登録だけすることにした。

 そして私は、都合三社の治験情報会社に会員登録をすることになった。治験情報会社のサイトには、現在募集中の治験情報を閲覧できるページがある。そこから、各々に合った条件の治験を見つけ出すというもの。この治験情報募集ページを閲覧するには、情報登録会社のサイトから会員登録を行い、IDとパスワードを発行してもらう必要がある。

 早速、登録画面に移り、基本的な個人情報データを入力する。住所、氏名、身長、体重、既往症、アレルギーの有無等……。結構細かいところまで質問は及び、「最高血圧と最低血圧を入力せよ」とまである。

 慢性高血圧の後期高齢者ならともかく、二十代で自分の血圧を知っている人間がどれくらいいるのだろうか。大きな疑問を感じたが、とりあえずネットで調べた正常な範囲である最高血圧一二〇、最低血圧七五と適当に入力した。

 完了かと思いきや、エラーが出てきた。

「住所が適切ではありません」

 よくよく見直していると、登録住所が関東に限定されていたのである。私は非関東地方在住のため登録ができなかったのだ。

 さまざまなサイトをチェックしたところ、日本で行われている健康な成人を対象とする治験のほとんどは関東で行われており、東京、神奈川、山梨、千葉、埼玉、栃木、茨城、群馬以外の人間は参加することができないらしい。

 もちろん治験登録会社が情報提供をしている病院にることが多い。検査ラボの都合なのか、それとも本社が東京にある都合なのか、とにかく一般の人でも応募可能な大部分の治験は、関東に限定されている。正確に言うと、熊本、福岡、大阪、京都に数病院ずつ。だが、これらは定期的に募集をかけていない。福井、浜松等もプロの間では有名だ。

 後にプロ治験の先輩方に教えていただいたところによると、浜松医科大学医学部附属病院や名古屋大学医学部附属病院、大阪大学医学部附属病院等でも治験募集をしていることがあるらしいのだが、外部からの応募は不可で、その病院の関係者の知り合いに限定される。

 非関東在住の人間は、事実上門戸もんこを閉じられているといっても良いのである。だが私はあきらめきれなかった。「寝ているだけで楽して稼ぐ! アルバイト情報誌には載らない秘密の募集」とやらを実際に体験してみたいと思ったし、単純に金に困っていたからだ。

「どうしたら良いだろうか……」

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職業治験—治験で1000万円稼いだ男の病的な日常

八雲星次

薬を飲むだけの怪しい高額バイト、そんな噂を聞いたことがありませんか? その名も「治験」。まだ開発段階の「新薬」を飲んで飲んで飲みまくり……。その薬のデータを取るために採血の連続。そんな治験歴7年、トータル入院日数365日、採血数900...もっと読む

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コメント

toshiotokioka https://t.co/LBQRutTjT4 1年以上前 replyretweetfavorite

nijuusannmiri へー。「治験はあくまでボランティアということになっているからだ。 4年以上前 replyretweetfavorite