怠け者さん、いらっしゃい【第一章 プロ治験者の優雅なる日常】

薬を飲むだけの怪しい高額バイト、その名も「治験」。まだ開発段階の「新薬」を飲みまくり、採血の連続。そんな治験歴7年というプロ治験者の日常やいかに? 第3回は、いったいどんな人が治験に参加するのか。長期休みの際は、学生が多く、他にも、農家、画家、ネット内職の人などさまざまなようです。さてどんな人が治験に向いているのでしょうか。好評発売中の『職業治験——治験で1000万円稼いだ男の病的な日常』(幻冬舎)より1章・2章をcakesで特別公開いたします!

 治験に向いている人はどんな人であろうか。それは、とにかく怠け者で、現代の価値観を真っ向から否定できるつわものである。働きたくない、とにかく楽をしたい等、世間一般的にはタブーとされることを突き詰めたい人に、特におススメする。

 私は、治験一本で喰っているが、参加者すべてが、「プロ」という訳ではない。中には学生や、自営業の人も混じっている。これは時期に左右される。春休み、夏休み、冬休み等である。

 一般的に、大学の長期休みに入る時期には、学生の参加比率が非常に高まる。一回の治験は、多くて三十名、少ないと十名前後の被験者での実施となるのだが、その内の五〇パーセントは学生ではないかという印象である。

 もちろん、個人的にアンケートをとった訳ではないので、パーセンテージについては不確実な部分もあるが、私が出会った人ではそうであった。経験則である。

 学生の参加者で多いのは、ネットの募集である。便利な時代になったもので、一昔前までの治験は、医療関係者(病院勤務の看護師や薬剤師、放射線技師等さまざま)からの紹介が一般的であったが、今は治験募集会社が営利目的に募集をかけている。この治験募集会社が曲者くせもので、「割の良いアルバイトを紹介するから紹介手数料を振り込め」等という、悪質な業者も中には含まれている。この点は要注意である。

「お金はないが、健康だけには自信がある」

 そんな若いあなたには、治験は向いているかもしれない。このご時勢、アルバイトをしたところで大した金にはならないことは周知の事実だ。金がまともなことをしていても貯まらないのは、無意識の内に理解している人が多いのではないか。長期治験を一回こなしても、せいぜい三十万から五十万円程度。ただ、時間は自由に使える。投薬日以外は。その時間を有効に使える人は治験に向いているといえる。

 私が出会った中で、一番真面目(?)だったのは、司法試験の受験生である。彼は、メシのとき以外、ずっと、ずっと六法全書を片手に、辰巳たつみ有斐閣ゆうひかくの問題集を解いていた。左手には留置針が刺さった状態である。金はないが勉強をしたい人間にとって、治験は最高の環境を提供してくれるだろう。

 多くの病院では、衣食住はすべて提供される。服は病院の入院着で、かっこよさレベルはの下の下であるが、女性と素敵なバーに入院着を着て飲みに行く訳ではないので、まあ、気にならないだろう。周囲にいるのはむさくるしい男ばかりなのだから。

 食事は三食提供。しかも、病院によってはかなり手間暇をかけた非常においしい食事が毎食提供される。かき揚げうどん、うな丼、牛ステーキ、刺身……。これらは実際に私が食べた食事の一例である。申し訳程度に出されるのではなく、本格的に食べられる。ただ、摂取カロリーを極めて厳密に管理されているために大食漢にとっては物足りないと思われる。

 住む場所は、ゴージャスな個室……と書きたいところだが、現実には、どこにでもある病院の相部屋あいべやで、シングルベッドである。相部屋の人数は、治験を実施する病院によって異なるが、おおむね一部屋四人から八人程度。私が経験した中で、一番最悪だったのは、三十人一部屋の大部屋である。

 この病院は赤字経営が続き、やむなく治験に手を出したのだが、そのしわ寄せはすべて被験者である我々にのしかかる。嫌ならそういう病院を避ければ良いだけなので、ネットの情報を参考に取捨選択をすれば良い。

 病室では、ワイファイが無料で使えるところがほとんどだ。何もすることがない人にとって、入院期間中の長い長い自由時間をどのように過すかというのは悩みの種であるが、ネット中毒の人にとってはこのうえない環境が提供される。

 ただ、周囲の目はいつも気になる。病室にはカーテンがあるのだが、就寝時間以外は、そのカーテンを閉めることは許されない。何でも、プライベートの空間があると、「良からぬことをするのでは」と病院は警戒しているのだ。

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職業治験—治験で1000万円稼いだ男の病的な日常

八雲星次

薬を飲むだけの怪しい高額バイト、そんな噂を聞いたことがありませんか? その名も「治験」。まだ開発段階の「新薬」を飲んで飲んで飲みまくり……。その薬のデータを取るために採血の連続。そんな治験歴7年、トータル入院日数365日、採血数900...もっと読む

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コメント

a_tocci 金はないが勉強をしたい人間にとって、治験は最高の環境を提供してくれるだろう。https://t.co/I1ABzrbWtM 9ヶ月前 replyretweetfavorite

a_tocci 私が出会った中で、一番真面目(?)だったのは、司法試験の受験生である。彼は、メシのとき以外、ずっと、ずっと六法全書を片手に、辰巳たつみや有斐閣ゆうひかくの問題集を解いていた。左手には留置針が刺さった状態である。https://t.co/I1ABzrbWtM 9ヶ月前 replyretweetfavorite

a_tocci 長期治験を一回こなしても、せいぜい三十万から五十万円程度。ただ、時間は自由に使える。投薬日以外は。その時間を有効に使える人は治験に向いているといえる。https://t.co/I1ABzrbWtM 9ヶ月前 replyretweetfavorite

_f_u_t_o_n_ https://t.co/RnkTXv2HAe すごいなこれ、、、 約4年前 replyretweetfavorite