薬漬けの極楽生活
私は、七年以上治験一本で
勤労経験(社会人経験)は二ヶ月。
それ以来、好きなことだけをして生きている。好きな本を好きなだけ読み、ネットゲームを朝から晩までやりつぶし、好きなだけ寝る。同年代の若者が、
私が治験で稼ぐ年収は約百六十万円。生活保護の支給額に、少し毛が生えた程度だ。
生活保護の支給金額は、居住する地域や家族構成によって異なるが、大阪府の西成区の単身者で十二万五千円であるから、年間約百五十万円ほど。
ただ、私の場合は、十分に働ける五体満足の体であり、どこにも異常はない。ただ、「働きたくない」がために、治験という職業を選んだのだ。
年間労働日数ゼロ。好きなことを好きなだけできる自由があり、これだけのお金が貰える。正直これだけの金額で、家族を養っていくのは無理がある。そのため、私の保険証は、「扶養」の二文字が光っている。本来であれば、自分で健康保険をかけなくてはいけないのだが、税務署に申告している所得金額は、ゼロ円。治験で得られる報酬は労働の対価としてではなく、あくまでもボランティアの時間
実際には、雑所得として申告しなくてはいけないのだろうが、それは、報酬を支払う病院が「治験」という一種のダークサイドとでもいうべき会計の裏のからくりであり、申告しなくても問題が起きることはまずない。所得税の捕捉率、10(トウ)・5(ゴウ)・3(サン)・1(ピン)の「ピン」の如く、私の所得は税務署に把握されていないのだ。
治験というと、一体何を想像するだろうか。危険・不健康・そして不透明さ……。製薬会社が金に物をいわせて、「人体実験」をしているのではないかという想像が一般的だ。結論から先にいうと、治験は確かに「人体実験」といわれれば
治験をやって健康とは一体どういうことか。それは、生活習慣がすべて管理されるため、外の汚れた世界よりも体内が浄化され、数段健康になっているのである。
私はタバコとお酒が大好きで、
「あれだけ好きだったタバコなのに……どうして……」という軽い
「マズい、非常に、マズい」
二週間前、最後の一服を吸ったときの味の記憶とは全く違うそれが口の中に広がる。そして、退院祝いとしてサッポロ黒ラベルに口をつける。いつもならば、発泡酒なのだが、今日は二週間ぶりの
「マズい……、匂いが臭い……」
感覚的には、小学生の頃、オヤジに無理やり飲まされたビールの味。あの頃の私はまだ汚れていない体であったために、嫌悪感を伴う独特の匂いと
人間の体というものは、再生能力を持っており、タバコやお酒は一種の劇物であり体を痛めるものだ。その影響から二週間遠ざかっただけでも、体の感覚が回復しているのが実感として分かるのだ。
夜の十一時に消灯。起床は八時。大の大人が実に九時間睡眠。サラリーマンをしていたときの私は四時間から五時間の睡眠しか取れなかったが、その寝不足の体への影響を考えたら、仕事を辞めてプロ治験者になって良かったなと心から思える。朝飯を食べてからの二度寝は当たり前。昼飯を食べてからの三度寝、三時以降の四度寝もありなこの世界。
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