加藤 そのへんの社員の育成について、聞かせてください。たとえば、編集のスタッフが企画を出してきたとき。あるいは、エンジニアがシステムの仕様を出してきたとき。どっちも「これじゃイマイチだよね」って直してもらうことが日々あるんですよ。
糸井 うん、そうでしょう。
加藤 でも、それをくり返していると、社員がぜんぶに対して「これでどうでしょうか」って確認しにくるようになる。自分で判断できるようになる機会をうばっているわけです。これって、すごくよくない循環ですよね? このままだと組織として強くなれないし、大きくなれない。なんとかしたいんだけど、解決策がわからないんです。
糸井 はい。
加藤 ほぼ日の場合、あの「unusual」の対談を拝見すると、「ピラミッド型の組織を横に倒して、船のようなかたちになるんだ」「リーダーはみんなの上に立つんじゃなくって、みんなの先頭に立つんだ」といったお話がありました。あれも「なるほど」と思う反面、「じゃあ具体的に、どうやってそれをやるの?」という気持ちもある。たとえば糸井さんの目から見て、イマイチな企画や原稿が上がってきたときどうしているのか。どうやって船型の組織を運営しているのか、ぜひ教えていただきたいんです。
糸井 悩むところですよね、うん。
加藤 とくにクリエイティブな部分になると、かなり組織化がむずかしい気がして。
糸井 そこはね……。
加藤 はい。
糸井 ……ずばり、加藤さんが「弟子」と「社員」とを、ごっちゃにしてるんじゃないですか?
加藤 うわーっ。あいたたたたた。
糸井 うん。弟子っていうのは、極端にいうと叩いてもいいんですよ。その人がひとりで食っていくために「原料」を仕込んでいるところなんで、麦踏みしてもいいんです。そりゃ実際に叩きはしないけど、自尊心をズッタズタにしてもいいし、そこまでされても向かってきてくれる人じゃないと、その宗派の教えは伝わらないですよ。
加藤 ああー、そうですよね。
糸井 じゃないと、弟子になる意味がないし。そこまでする、っていう体力もこっちはかけてるんで。弟子と師匠の場合、弟子がつぶれるというパターンは大いにあると思います。
加藤 なるほど。
糸井 ぼくも弟子にあたる人をとった時代はあったし、そういう人も何人かいまして。うん、もう正直にいいますけど、基本的にはつぶしました。
加藤 うーん……そうでしたか。
糸井 ええ、つぶしてしまいました。でも、その手前で送り出した人は、ちゃんと自分で持ち直して、なんかしてます。友達のところでいったん拾ってもらえたり、独り立ちしたり、いろんなケースがあります。それは、つぶしきらないところで出てもらったんでしょうね。もともと、なにもない子を弟子としてとることはしないですから。芽があって弟子にしているわけなので、芽をつぶさないうちに出しちゃった子は、食っていけてます。
加藤 むずかしいお話ですねえ。
糸井 でも、弟子っていうほどなにかを伝えられたかというと、たぶんできてないです。そうですね、やっぱり厳しかったですよ、それは。
加藤 ちょっと想像できないですね、厳しい糸井さんって。
糸井 いやぁ、きついですよ。いっちばん嫌味なのはさ、「おれはもう口出ししないから」って、仕事を丸投げするんですね。ぜんぶお前がやってみろって。
加藤 はい。
糸井 で、封筒ひとつ渡して「締切までにできなかったらこれを開けて、どっちがいいか比べろ。それで、いいと思ったほうを出せ」って。
加藤 つまり、封筒の中には糸井さんがつくったコピーなり原稿なりが入ってる?
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