加藤 じゃあかなり早い段階でほぼ日のお仕事一本に絞られたわけですね。
糸井 でも、個人のお仕事をぜんぶ会社に入れると、もう「やーめた」ができなくなっちゃうんですよ。
加藤 そうですよねえ。
糸井 だけどね、かえって明るくなった。せいせいして。あとは、その社長さんから「糸井さんの給料は、社員のみなさんからうらやまれるくらいにしないとダメです」と教えてもらって。まあ、もとを低く設定しすぎていたんですけど、自分の給料もちゃんと上げて。だから、それ以降に入ってきた人たちは、思ったよりも給料が多かった、みたいなことをいってくれてましたよ。
加藤 へええ。
糸井 このへんさ、さっきいった「想像してることと違った道で」というのは大事なところで、手の内でわかるテーブルマジックみたいな道は、答えじゃないことが多いんですよ。バナー広告を出す、とかね。だって、バナー広告を出すだけで、もう営業部が必要になりますよ。
加藤 そうですね。
糸井 だったら、彼らのお給料だけでバナー広告分くらい飛んじゃいますよ。
加藤 コンテンツにも影響がありますしね。
糸井 あります。だから、いままで同じ業界の人がやってきたことをなぞっても、あんまりうまくいかない気がする。ドワンゴの川上さんがジブリの鞄持ちをしに行ったのも、そこのジャンプがしたかったんでしょうね。ぜんっぜん違うところに行きたかったんじゃないかな。
加藤 なるほど。
糸井 ぼくも、沈む間近まできたところで怖いもの知らずになったんだと思います。それからはもう、休みはちゃんととるとか。だって、初期のころは「寮があったらもっとみんな働けるのに」とか思ったことありますもん。
加藤 ははははは。ちょっとブラック企業的な。
糸井 ブラックどころじゃないですよ。「会社で仕事をすること」を、「徹夜で麻雀すること」と同じだと思ってましたから。ゲーム会社なんかだと、そういう雰囲気が好きな人たちが大勢いたんでね。
加藤 ああー、そうでしょうね。出版社にも少しそういう雰囲気はあります。
糸井 それがおもしろくてやってたところもあるし、事実として「そういうチームは強いぞ」ということも覚えてたんで。しかも、お互いに「これじゃ誰も結婚できないよね」って笑いながらやってるチームが、当人たちにとってはちょっと誇らしかったりもするんですよ。ぼくもだから、ほぼ日をはじめて間もないころは、そういう楽しさを求めていました。
加藤 ああー、そういう創業期の姿はおもしろいですね。
糸井 だから当時は、「命知らずな人間」ばかりがほしいと思っていました。命知らずで、女も嫌いで、食うことが大好きで、あとは絶えず仕事のことを考えていたら大満足、みたいな。おいしいものなら会社にたくさんあるんで。
加藤 へーえ。初期のころって、そんな野武士的な集団だったんですか?
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