加藤 いまのお話、kindleとの比較でいうと、本の編集者だったぼくが電子書籍というかたちをとらずにウェブでやってるのは、まさにあえてチャレンジしているところなんです。
糸井 はい。
加藤 じつはcakesをはじめる前、ダイヤモンド社にいたときに、かなり本腰を入れて電子書籍をやっていたんですね。それこそ『もしドラ』なんかを電子書籍化して。ただ、本をデジタル化するときには、どうしても本をそのままコピーしたようなかたちにするしかない。せっかくのデジタルなのに、紙みたいな売り方をしてどうするんだよ、と思ったんです。
糸井 なるほど。
加藤 そもそも本って閉じられた媒体ですよね? でも、デジタルのいいところって、オープンでシェアできるところなので、それができないのはすごく不便なんです。だったらウェブのほうがいいんじゃないの? そうすればパソコンでもスマートフォンでもスムーズに読めるし、というシンプルなところからスタートしているんですよ。
糸井 うん、うん。
加藤 それから、なんで本の編集者だったぼくがこんなことをやってるかというと、編集者の仕事って「誰かのメッセージをより広く伝えること」であって、「本をつくること」じゃないんですよね。だからこそ、スマートフォンでも読めるあたらしいしくみが必要だと思ってやっているんです。
糸井 よくわかります。
加藤 ただし、ここが矛盾しているところというか、むずかしい問題なんですけど、もしもぼくらの仕事が「誰かのメッセージをより広く伝えること」だけだった場合、無料のほうが広がるんです。
糸井 はい。
加藤 けれども、クリエイティブを継続していくためにはお金も必要で。だから、今日のテーマは「クリエイティブで食っていく」じゃないかなと思うんです。
糸井 まさにそうでしょう。
加藤 糸井さんはほぼ日というかたちでそれを実現させていて、ぼくはどうにか自分なりのやり方で、その道を模索している。広げていくためには、無料で広げることも同時にやりながら、有料の部分とうまく組み合わせてクリエイティブで食っていけるシステムにしていきたい。クリエイターが適正に儲かる場所をつくっていきたいんです。もちろん、まだ結論は出ていない、よちよち歩きですが。
糸井 はい。
加藤 それで糸井さんは、無料でずっとやっていくなかで「これでどうやって食っていくんだろう?」と思ったりした時期はなかったんですか?
糸井 ゾッとしましたよ。
加藤 しますよね?
糸井 売るものがなにもない時期は、かなり長かったですから。このままいったらちょっと危ないぞ、というところまで行きました。
加藤 ずっとご自身の稼ぎを突っ込みながら続けられてたんですよね?
糸井 しかも、ぼくは「ご自身の稼ぎ」を辞めたくてはじめたことですから。
加藤 うーん、そうか。複雑ですよねえ。
糸井 ただ、幸いにもぼく自身が、数字を見ることができなすぎたんで。
加藤 経営的な意味で、ですね?
糸井 うん。怖い気持ちもありながら、どこか自分をごまかしてたんです。医者に行かないから大病が見つからず、知らないうちに治っちゃった、みたいな。だから何度も考えましたよ、有料のことは。課金にあたることを提案されたことは山ほどありますから。
加藤 そうですよねえ。
糸井 ほぼ全員がそういうことをいってました。
加藤 実際、有料化してもかなりの読者は集まったと思いますしね。
糸井 うーん、そこはぼくにわからない。ぼくは最初にどうにかなる基準として「3万人」という数字を考えて、実際に3万人より多くなったのに、食えてなかったわけですから。
加藤 広告も貼ってないですし。
糸井 うん、だからバナー広告をやろうかと思ったことも何度もあります。そういう気の迷いは、それこそ何度となくあります。あとは「ここを見ざるをえない」というようなページ、ポータルサイトに近いようなページをつくることを考えた時期もあります。
加藤 具体的にはどういうものですか?
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