糸井 だからね、加藤さんも立派な社長になろうとするのは早めにあきらめたほうがいいのかもしれない。
加藤 ああー。糸井さんも最初はなろうとしたんですか?
糸井 やっぱりね、「悪いな」って気持ちはどっかにあるんです。ぼく、引越の手伝いなんか、ぜんっぜんしないですから。よその中小企業を見てると、そういうところでものすごく張り切る社長さんがいるんですよ。
加藤 わかります。
糸井 だから、小さなデザイン会社の社長さんと釣りに行くときなんかに、向こうが「きょうはちょうど会社の引越なんですよねえ」と困り顔してたら、「そんなの、ちゃんと休まなきゃだめだよ」っていってあげるんです。
加藤 糸井さんはそれで通してるんですか?
糸井 そう、まさにその社長さんから同じこと聞かれるわけ。そしたら「うん、こころはすっごく痛むんだよ」って(笑)。
加藤 (笑)。
糸井 でも、「その痛みを、おれはもっと稼いで返すから」って、力にしなきゃだめなんですね。引越で役に立たないおじさんやってるよりは、給料だけは遅配しないぞって。そっちが社長の仕事ですから。
加藤 なるほど。
糸井 こころの痛みはファイトに変えるんです(笑)。
加藤 わはははは。
糸井 これ聞いただけでちょっとラクになるでしょ?
加藤 いやあ、ラクになりました。
糸井 社長をやってるとさ、「悪いねー」って思うことだらけなんですよ。それぞれの立場にいる人が、それぞれの場所で努力していますし。知恵は出さないけど汗をかいている人もいれば、知恵を出してるけどうまくいかない人もいる。そのとき、「社長のいちばんの仕事はなあに?」という疑問については、ずーっと考えてなきゃいけないわけです。正直いうと、いまでも考え中です。
加藤 社長のいちばんの仕事かあ。
糸井 で、いちばん小さいまとめ方は「給料を払うこと」なんです。
加藤 ああー、それはそうですよね。
糸井 それ以外がうまくできても、給料払わない社長なんて、大っ嫌いですよ、みんな。
加藤 うん、うん。
糸井 たとえば、すごく人柄のいい社長がいて、もう一方で人柄は悪いけどバンバン給料上げますという社長がいたら、みんな給料上げる社長についていくもんですよ。それで、こういう話は社員を前にいいます、ぼくは。
加藤 なるほど。
糸井 そうはいかないけどね、もちろん。そうはいかないんだけど、その現実というか、人間感を、「社員の側」と「経営してる側」の両方から養っていかないと、落ち着かないんですよ。そして落ち着かない人が社長をやってると、不安になるんですよ。それでひたすら一所懸命やってる振りをするんです。