加藤貞顕(以下、加藤) 今回お話をさせていただくにあたって、糸井さんが書かれた本をいろいろ読み返してきました。なかでもとくにおお!っと思ったのは、2001年に刊行された新書『インターネット的』です。
糸井重里(以下、糸井) はい、『インターネット的』。
加藤 この本が刊行された当時、ぼくはアスキーという出版社で働いていて、雑誌の書評欄でとり上げさせていただいたんですよ。もちろん、「おもしろい本だなあ」と思ったからなんですけど、今回読み返したらまったく違った感想が出てきたんですね。いまになってやっと理解できた部分がたくさんあって。目からウロコというか、まるで予言書のような一冊ですよね。
糸井 はーっ。これ2001年でしたっけ。ずいぶん時間が経ちましたね。
加藤 そうなんです。それで糸井さんがいまのインターネットを眺めたとき、「あのころ思っていたとおりに進んできたな」という印象なのか、それとも「ちょっと違う方向にきちゃったな」という印象なのか。現在のインターネットについて、どうお考えですか?
糸井 いやあ、別に予言したつもりはなくて、このときから「インターネットって、こうだよね」「こんな時代になってるよね」という話を書いたつもりだったんです。未来の話じゃなくって、いま起こってることとして。ただ、わかってくれる人の数は少ないだろうな、とは思っていましたね。
加藤 ああ、なるほど。
糸井 いまでも、まだですよね? たぶん「なにいってるんだろ?」という人も多いんじゃないかな。
加藤 そうかもしれません。ドラッカーの本とかも、そうですよね。ふつうの言葉で、かなり深い内容が書いてあるから、するっと読んでしまって、わかった気になってしまいやすいというか。
糸井 うんうん、あたりまえじゃん、みたいにね(笑)。
加藤 今回あらためて読み返して、『インターネット的』はそういう古典みたいに、すごいことが書かれた本だと思いました。というのも、ぼくはもともと出版社にいて、コンピュータ系の雑誌の編集をしていたんです。それがインターネットの普及と共に、雑誌がどんどん駆逐されていくという経験をしました。とくにコンピュータ系の雑誌って、いちばん最初にネットにやられたんですよ。
糸井 ああ、そうでしょうね。
加藤 それでこんどは書籍の編集をするようになって、まあ、がんばって本をつくっていたわけです。でも、2007年か2008年くらいから潮目が変わってきた印象があって。つまり、消費者のニーズが多様化して、あらゆる商品がセグメント化された消費スタイルに変わっていきました。実際、それくらいから書籍全体の売上も落ちてきて。
糸井 はい。
加藤 ちょうどiPhoneが出たのも、2008年です。そこからだんだん電車に乗っているひとがみんなスマートフォンを見るようになっていって、紙の本やマンガを読むひとが減ってきた。だったら「ここ=スマートフォン」でコンテンツを売っていかないとはじまらないなと思って、cakesの立ち上げにつながっていったんです。
糸井 なるほど。
加藤 じゃあ、どんなコンテンツを揃えればいいのか。まず考えたのが、ネットでやるんだから旬な人のインタビューが読みたい、ということ。そして「あたらしいひとを育てる場」としての雑誌が機能しなくなってきているから、あたらしいエッセイストを生み出せるようにしたい。毎日更新するサイトだから、日替わりの写真コンテンツもほしい。誰にでも愛される写真といえば動物かな……みたいなことを考えていったとき、「あ、これってぜんぶ『ほぼ日』がやってることだ!」って気がついたんです。
糸井 ははは(笑)。
加藤 でも、ぼくは糸井さんじゃないし、ほぼ日はつくれない。じゃあ、ぼくにできることってなんだろう? ……そうやって考えていった結果、作家や出版社さんなどのコンテンツホルダーが使う「場」をつくることが、ぼくの役割なんだろうなと思ったんですね。もちろん自前のコンテンツもつくっているんですが、「場」の提供を最優先に考えていこうと。
糸井 ええ、ええ。
加藤 そこでお伺いしたいのは、「糸井さんにとっての『ほぼ日』って、どういう場所なんだろう?」ということなんです。
糸井 場所、ね。
加藤 つまり、最初はプライベートな発信の場だったものが、いまは「ほぼ日」というパブリックに近い場になっていますよね? 一方、会社の名前は「東京糸井重里事務所」のままだったりする。「株式会社ほぼ日」でもいいのに、そうじゃない。このあたり、どういうスタンスで場を設計しているのでしょうか?
糸井 たぶん、ほんとうはもう違っているんです。
加藤 違っている?
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