東京六本木を歩くと、至るところでアートに出合えます。2000年代に入ってから、六本木ヒルズの最上層階にある森美術館、東京ミッドタウン内のサントリー美術館、国立新美術館という三つの大きな美術館が立て続けにオープン。ギャラリーも点在するようになり、すっかり「アートの街」ともいうべき顔が定着しました。
今回はその一角、国立新美術館での「印象派を超えて―点描の画家たち」展に足を踏み入れてみましょう。展名のサブタイトルに、「クレラー=ミュラー美術館所蔵作品を中心に」「ゴッホ、スーラからモンドリアンまで」とある通り、主な出品作はオランダのクレラー=ミュラー美術館所蔵のものです。20世紀前半に一大アートコレクションを築いたクレラー夫妻が、その作品群を展示するためにつくられた美術館で、ゴッホやスーラ、モンドリアンといった19~20世紀の作品をたくさん所蔵しています。
そのなかから、「点描」にまつわるものばかりを選び、今展は構成されています。点描とは、画面を色とりどりの細かい点で埋めていく描き方。パレットの中で絵具を混ぜて色をつくり、それを画面に塗りつけていく通常の描き方とは違い、一つひとつの色を混ぜずに、小さい筆致でそのまま画面に置いていく。近くで見ると何がなんだか分かりませんが、少し離れて眺めてみると、隣り合った色の筆致が視覚のなかで混ざり合い、統一のある色合いに思えてきます。
点描——色を細かく分けて用いるところから「分割主義」とも呼ばれます——で描くと、画面はパッと明るく鮮やかに、キラキラした感じになります。混ぜないほうが、色は輝く。そういうふうにできています。図工の授業で経験済みの方も多いと思いますが、色は混ぜれば混ぜるほど、黒っぽく、くすんでいってしまいますからね。
ジョルジュ・スーラ 《グラヴリーヌの水路、海を臨む》 1890年 油彩/カンヴァス 73.5×92.3cm クレラー=ミュラー美術館 © Collection Kröller-Müller Museum, Otterlo, the Netherlands
点描は最初、明るい画面を得ようと戸外での制作を始めた印象派の画家たちが、無意識に取り入れていた手法です。それをジョルジュ・スーラが意識的に採用し、科学的な理論を付け加えながら徹底し、精度を上げていきました。
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