第1回】いまや世界に君臨する支配者

世界最大のハイテク企業であるアップルの、“日本支配”が進んでいる。最先端のものづくりで世に聞こえた日本の電子産業は、アップルの下請けと化しているのだ。これまで明らかにされてこなかった実情を追った。

 アップルの創業の地、米カリフォルニア州クパチーノ市にあるスティーブ・ジョブズの旧・自宅ガレージは、シリコンバレーの観光名所となっている。1976年、ジョブズと共同創業者であるエンジニアのスティーブ・ウォズニアックが発売したシンプルな1枚の回路基板「Apple I」は、世界初の個人向けコンピュータであり、ここからアップルの歴史も始まった。

 そこからホームステッド通り沿いに西へ約6キロメートル進んだところに、アップルが2015年に移転を計画している新社屋の予定地がある。

 新社屋は、生前のジョブズが「すべてが曲線で、平らなガラスはどこにもない」と自慢してみせた全面ガラスの外装で、上から見るとリングの形をした流麗な美しいデザイン。通称「マザーシップ」という通り、まるで宇宙船、あるいは素粒子の円形加速器、それともタイムマシン……。40年前の雑然としたガレージまで時間旅行できそうな、近未来的な建物だ。

 この40年弱の間に、アップルは驚くべき成長を遂げた。特にジョブズがCEOに復帰した2000年以降の伸びがすさまじく、90年代の売上高成長率の平均が2.7%であるのに対し、2000年以降のそれは30.4%である。

 11年度は売上高1082億4900万ドル(約8.4兆円)、純利益259億2200万ドル(約2.0兆円)。9月21日には新型スマートフォンのiPhone5を発売したばかりだが、発売から3日間の販売台数は500万台を突破。同時期に400万台だった前モデルのiPhone4Sを凌ぐ初速で、勢いは止まっていない。ゴールドマン・サックスの予想では、12年度の売上高は1557億0170万ドル(約12.1兆円)、純利益は416億2100万ドル(約3.2兆円)に達する見込みだ。

 確かにアップルの製品、サービスはわれわれの暮らしを変えた。同時に、アップルはその巨大なビジネスを遂行する過程で、関係する産業・企業にも正負それぞれの影響を与えている。

 何しろ、ソニーもパナソニックもシャープも、いまやアップルの下請け企業だ。特に経営再建中のシャープは、iPhone、iPad向けの液晶パネルのビジネスがなければ、途端に進退窮まってしまう。その他、部品、加工、工作機械を含め、世界に誇った日本のものづくりは、すっかりアップルの支配下にある。

 そして、妥協を許さず一意専心に事業に打ち込む姿勢により、アップルはいまや世界で最も高い企業価値を誇る。米JPモルガン・チェースは、今回のiPhone5が、米国の第4四半期の国内総生産(GDP)の伸び率を最大0.5ポイント押し上げるという試算を発表した。まさに世界に君臨する支配者だ。

 こうしたとてつもない成果を、昨年亡くなったカリスマ創業者、ジョブズの類いまれな才能によるものと片付けるのは、乱暴に過ぎるだろう。

 もちろん、彼の製品に対するこだわりや、新しいサービスについての卓見なしに、今のアップルはなかったはずだ。

 だが、アップルの凄みは、そうしたビジョンを現実のものにしていく「組織の力」にある。にもかかわらず、スター経営者や華やかな人気製品の裏側にある、企業としての真の姿はあまりに知られていない。

 この連載では、アップルに生殺与奪の権を握られたものづくりの現場、アップルの製品やサービスによって引き起こされた競争ルールの変更に翻弄される業界や人などにスポットを当てつつ、知られざる「アップルの正体」を明らかにしていく。

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