テレビでできないこと~YouTubeで『100時間テレビ』
土屋敏男(以下、土屋) ついこのあいだYouTubeで『100時間テレビ』(※1)ってやったんですけどね。
※1:2013/10/19~23、『YouTube エンタメウィーク』内で行われた配信生番組
加藤貞顕(以下、加藤) 100時間!
土屋 『YouTube エンタメウィーク』にお誘いをいただいたんで、「インターネットでしかできないことってなんだろう?」って考えたときに、テレビって時間枠があるじゃないですか。 だから100時間ですべてのことを起こして、すべてのことがそこで収束するっていう、インタラクティブで即興的なことをやってみようと思って。ゲストのキャスティングもその時間の中でやったり。
加藤 へえー! 「○○さん今これますか?」みたいな(笑)。
土屋 そうです。twitterで呼びかけたり。
加藤 しかし、土屋さんほんと、「テレビができないこと」ばっかり試していらっしゃいますね。
土屋 じゃないと、つまんないじゃないですか(笑)。
加藤 テレビ局の行く末を考えると、結果的にそういうことをせざるを得なくなるってことですか?
土屋 うーん、誰かがそういうことやっててもいいんじゃないかと思いますよね。テレビのディフェンスとオフェンスがあるとすると、だいたいディフェンスラインが見えたじゃないですか。それこそ2005年に堀江貴文さんがフジテレビを買収しようとしたころは、インターネットに全部やられちゃうんじゃないかって、そんな危機感があったけど、なんとなくすみ分け方がわかってきた。じゃあ、もともとに立ち返れば僕らは『映像の作り屋』だと。
加藤 映像コンテンツをつくる人、というスタンスなんですね。
土屋 そうですね。これ以外のことはできない。
おもしろい人生があるからおもしろく作れるわけじゃない。
加藤 最近、素人の方も結婚式の余興でビデオ作ったりするじゃないですか。それこそドキュメンタリータッチで。それとテレビ局が新しく会社を作って手がけるプライベートな作品は、どういう違いがあるのかをお伺いしたいと思っていたんですけど、“1000万案件”は確実に、一般の人じゃ受注できないですよね。
土屋 制作費が50万円でも、『一流のプロ』と、まあ、言っては悪いですが『見よう見まねでやる人』とは本質的に違います。すべての人の人生を確実に、おもしろく、素敵に取り出せる。それがプロの仕事だとは思うんです。
子どもの日記のように、「朝起きました」、「歯をみがきました」、「学校へ行きました」……って、これは誰でも書ける一日ですよね。そうではなくて、一日のあるところに焦点を絞って「この一日は、その時代において、彼の人生にとってどういう意味であったか」を切り取る作業をするのか、その違い。でも、これってわかりづらいですよね。
加藤 僕も拝見して、冒頭、昔の新聞と時代背景と個人の人生をつないでいくところを見て「あ、なるほど!」と思いました。ただ、ああいう編集的な視点っていうのは、実際に見るとわかるんですけど、なかなか説明しづらいものがありますよね。
土屋 『おもしろい人生があるからおもしろく作れる』わけじゃなくて、『おもしろい切り取り方ができるからおもしろく作れるんだ』っていうことなんですよね。
加藤 土屋さんって、日テレのお仕事もかなりお忙しいんじゃないかと思うんですけど、今はこちらをメインでやってらっしゃるんですか?
土屋 そうですね、今は『LIFE VIDEO』を軌道に乗せたいというか。まあ、そのときによるんですけど、テレビは特殊なものしかもうやらないんで。
加藤 日本テレビの子会社としてやってらっしゃるんですよね。っていうことは、日本テレビの収益を増やすための事業という位置づけですか。
土屋 そんなに儲かるもんじゃないですけど(笑)。今『LIFE VIDEO』やってるディレクターって、全員50代なんですよ。
加藤 おー、なるほどー。これは、経験が豊富な方がやったほうがいいですよね。
土屋 この業界、ディレクターという技術しか持っていない人間も、たくさんいますからね(笑)。極端に言うと、その人間たちが一生「ディレクターとして生を全うできるモデル」っていうものにしたいなあと。
加藤 へえー! そういうことも考えてらっしゃるんですね。社内に新しい仕事を作ってる。
土屋 不器用なんですよね、ディレクターって。プロデューサーになったり管理職になったりできる人間もいるけど、この業界にはディレクターしかできない人間もいるから、その人間たちがいられるところを。
そのまんまの気持ちで作れるから、こっちのほうが楽しい。
加藤 テレビはマス向けに作られると思うんですけど、個人向けに作られるということで「テレビだとできなかったことが明らかにある」っていう実感はありますか?
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