早速、カラオケを歌っていた東田さん。 画面に書かれている歌詞を見ながら、リズムに合わせ抑揚をつけて歌っている。 指揮棒のように振る右手で、リズムをとっているよう。
せめて歌の中では主人公になりたい
—— 東田さんは、カラオケによく来られるのですか?
東田 月に、2回か3回来ます。おわり。
—— 歌っている時は、会話時よりも言葉がスムーズに出ているように思えます。東田さんにとって、歌うことと話すことは、何か違いがありますか?
東田 重度の自閉症者の中には、僕のように会話ができなくても歌なら歌える人たちがいます。歌というのは、決められた歌詞を読むことです。そのことと、自分の気持ちや考えを話すことは、僕の脳の中では、全く別のものなのです。話したくないとか、緊張するから言葉が出ないのではありません。僕が話せない状態はみなさんが経験したことのある『ど忘れ』がずっと続いているようなものではないでしょうか。おわり。
—— カラオケでは、どのような曲を歌うのですか?
東田 いろいろです。たとえば、「線路は続くよどこまでも」や「アンパンマンたいそう」、J-POPも歌います。おわり。
—— 東田さんが曲を選ぶのは、メロディーが好きだからですか? それとも詩が好きなのでしょうか?
(ここで突然、東田さんの口から甲高い声で、答えに関係のない「30分になったら」という言葉が、飛び出す。)
東田 曲が好きなものも、詩が美しいと思うところに……
(質問に答える途中で、今度は「35分になったら」という言葉が出る。質問に答えてくださる声とはトーンが違うので答えの続きを待つと、声のトーンが戻り、文字盤を指しながら話す東田さんの回答がはじまる。インタビューが早く終わってほしいわけではなく、東田さんには、「○分になったら終わり」と言ってもらいたいこだわりがあるらしい。)
東田 ……(詩が美しいと思うところに)惹かれる歌もあります。おわり。
—— 「線路は続くよどこまでも」や「アンパンマンたいそう」などは、懐かしさを感じるとか、昔から好きだという理由で歌われるのですか?
東田 歌っていると、自分が元気になれるからです。おわり。
—— 「歌っていると元気になれる」と感じるのは、どうしてですか?
東田 歌の主人公になったような気がして、勇気がわいてくるのです。おわり。
—— 東田さんのお話には、よく「主人公」という言葉が出てくるかと思います。「主人公」というのは東田さんにとって、どのような存在なのでしょうか?