最終回】「演出」がわかるとテレビは楽しくなる

TVディレクターは映像に演出をほどこすことで、視聴者にメッセージを伝えます。極端に画面の左側があけたり、画面の片隅にある雑誌を映り込ませたり。それらの意図に注目しながら見れば、ディレクターと会話をしているような感覚で、もっとテレビが楽しくなるかもしれません。同時掲載のノンフィクション作家・石井光太さんとの対談もあわせてお楽しみください。(『TVディレクターの演出術: 物事の魅力を引き出す方法』(ちくま新書)より)

 テレビの撮影には、前回ご紹介した「フリを入れる」ことのほか、細かいことから応用まで、さまざまなテクニックがあります。それらは、作り手のいろいろな考えを示すメッセージになっており、ディレクターは番組にいろいろな意図をこめます。そして、出来る限り視聴者に見てもらってその反応や感想が欲しいと思っているものなのです。

 この章を読んでいただければ、テレビの向こう側のディレクターの隠された意図を見抜きながら、ディレクターと会話をしているような感覚でテレビを見る面白さを発見できるかと思います。

 いままでとはひと味違うテレビの見方に、足を一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。

高橋さんが実際に行なった演出。青梅でつくられた梅酒を注ぐ際に、多摩川の橋を映り込ませた。(photo:テレビ東京)

画面の余白で伝える、おばあさんの「孤独」

 あるおばあさんのインタビューを撮ったことがありました。彼女は、日本から遠くは離れた海外で、貧しい女性たちを救うべく、編み物を教えていたのです。

 そんな彼女の行動力の源の一つが、亡き旦那さんへの愛でした。彼女が海外で働くことに、旦那さんはかなり狼狽しましたが、それでも最後は賛成。それどころか、海外で困っている人を助けたいという彼女に、海外の自分の知人をたずね、働き先まで紹介してあげたのです。しかし、旦那さんはその後、亡くなってしまいます。

 彼女は、自分が無理を言って海外に飛び出し、旦那さんのお世話を怠ったからではないかと、深く後悔していました。

 ある日、僕と彼女が夕飯を食べていたとき、彼女が旦那さんへの思いを急に語り出してくれたので、旦那さんのことをしゃべる彼女の姿を、僕は極端に画面の左側をあけて撮影しました。

 彼女はいま日本から遠く離れた海外で日本人などほとんどいないなか一人で頑張っている、愛する旦那さんは他界してしまってこの世にいない。これは、そんな彼女の「孤独」と、それを乗り越えている強さを言外に表現したかったからです。

 彼女一人の姿を画面いっぱいに描いてしまっては、正直、彼女が何人で食事をしているのかわかりません。

 しかし、食事のシーンの中で、隣の空席をあえて画面にいれ込むことで、彼女が一人で食事をしているのだということがよりよくわかる。

 そして彼女が旦那さんについて、その画の中で語ることで、本当は、その空席の位置に、彼女は旦那さんに座っていて欲しかったと思っているのだろう、という僕が受けた気持ちを表現できればと思ったのです。

 このように画の中に、何か意味をもたせようとして撮影されたカットは、ドキュメンタリーではよく見られます。

 たとえば、最近たまたま見たテレビのドキュメンタリーの中にもそういったシーンがいくつもありました。

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人と同じじゃつまらない—TVディレクターの演出術

高橋弘樹

世間的には憧れの的と思われているTVディレクター。しかしその実態は、連続労働時間30時間を超えることもざらではない激務の連続、業界自体の斜陽により昇給ほぼナシと、リア充になるにはほど遠いものです。それでも、テレビの仕事は楽しいと言い切...もっと読む

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WundtMW カメラワークはおもしろい!ぽっかり空いた感じを言葉じゃなくて雰囲気で出すのは大事!  3年以上前 replyretweetfavorite