昭和が終わり、本格的なIT時代の幕が開けて早20年。前回お話しした通り、IT化が進むに従って、それまでは当たり前だった単一の価値観がガラガラと音を立てて崩れていったのです。代わりに個人が各々自分なりの価値観を持って生きていかなければならない時代が始まりました。
この「自分の価値観を持つ時代」というのは、どうやらとっても生きにくい時代のようです。不登校、引きこもり、離婚、児童虐待、自殺……。2013年の日本では当たり前になってしまった社会問題が、単一価値観の崩壊とともに、堰を切ったように増え始めたのです。
「自分の価値観を持つ時代」なんて言えば聞こえはいいですが、要するに「オレはオレの勝手にするね。オレはアンタに干渉しないから、アンタもオレに干渉しないでね。」という話です。自分探しがブームとなり、好きなものに囲まれ、好きな映画を見て、話が合う人とだけつるむ。そんな暮らしがごく当たり前となったのです。
気が付くと、周囲には電車の中でお化粧をする若い女性や地べたに尻を付けて座る若者が出現しました。携帯電話の普及とともに援助交際も激増。「別に誰にも迷惑をかけていない。」と言われると、大人たちは答えに窮しました。もう「ダメなものはダメ」なんて理屈は通りません。やがて、お互い干渉しない「スルーする」という行動様式が当たり前のものとなりました。人は人、我は我。東日本大震災が起こるまで「絆」なんていう人は誰もいなかったのです。