優勝国だけが持つ、「信じ切る力」

ワールドカップ2014ブラジル本大会を半年後に控え、日本代表の親善試合は結果が伴わず、4年前の南アフリカ大会前のように監督解任論も燻り始めました。来年に限らずとも、私たちは死ぬまでに日本代表がワールドカップトロフィーを掲げる光景を目の当たりにできるのか? その問いに確信を持ってイエスと答えるのが、テレビ朝日系「Get sports」などで論理的なサッカー解説でおなじみのスポーツジャーナリスト・中西哲生さんです。本連載では、11月13日(水)発売の中西さんの新刊『日本代表がW杯で優勝する日』(朝日新書)の内容をいち早くお届けします。

 僕は、日本サッカーに携わる者として、ワールドカップ(W杯)で優勝したいと思っている。日本代表を応援する方であれば、少なからず同じ夢を抱いているだろう。しかし同時に「やはり難しいのでは」、という感情も持っているはずだ。

 しかし、僕は本気で日本は優勝できると信じている。

 W杯優勝経験国は、ウルグアイ、イタリア、西ドイツ(現ドイツ)、ブラジル、イングランド、アルゼンチン、フランス、スペインの八つしかない。

 そんな中で、それでも日本が九つ目の国になれると言える理由は、「日本が世界的にも稀有な国なのではないか」という感覚を、僕自身強く持っているからだ。

 W杯で優勝するためには、その国独自のスタイルがサッカーに反映されていなければならないと一般的に語られてきた。どれだけ経済的に豊かな国であっても、あらゆる英知をもってしても、W杯優勝を成し遂げるのは非常に難しい。優勝した国には必ず、彼ら独自のスタイルが存在しているのである。

 例えばブラジルはテクニック、駆け引きの力などすべてにおいてハイレベルなものを持っている。そしてスペインなら徹底的なつなぎ。ドイツは質実剛健。アルゼンチンは突出した個と守備力の高さ。イタリアは勝負強さ、そして守備、1‐0で勝つ美学がある。

 日本のサッカーにも、必ず合うスタイルがある。その内なる特長をピッチに投影させていけば、W杯優勝国への仲間入りができるはずだ。日本はアジア文化圏だが、その中でも一つの島国として文化圏を成し、固有の文化を持っている。四季のある自然、建築様式、人々の心、日本独自といえるものはたくさんある。

 今まで誰も成し遂げていないことを成し遂げる時に必要なのは、窮地に追い込まれた時に自分を信じきれる力だ。それはW杯決勝で、最後に自分たちが一番苦しいという局面に追い込まれた時、自分たちはW杯優勝に相応しい国だと信じられる「心のよりどころ」。

 世界的にも独自の文化を持っている我々は、すでに〝それ〟を持っている。

 だからこそ、自分たちの内側を深く掘っていく必要がある。

自分たちの〝タガ〟を外せるか

 2013年6月のコンフェデレーションズ杯。イタリアとの2戦目は2‐0のリードから最後は3‐4の逆転負けだった。しかし、2‐3となってから後半24分に3‐3に追いつく場面、そしてその後の再逆転できそうな、かさにかかった攻撃の場面を見て、僕は日本がいつかW杯で優勝できるとの想いをより強くした。イタリアは世界の中でも、守備が堅いと言われている国の一つである。特に、1点リードを逃げ切るのが非常にうまく、実際、あの試合も選手を代え、逃げ切り態勢に入っていた。しかしそういったイタリアに対して日本は全くひるまず、自らの〝タガ〟を外し、向かっていった。それは、これまでの世界トップクラス相手との戦いでは見られないことだった。

 今までの日本代表は、良い意味でも悪い意味でも、タガを外せないサッカーだった。いや、あったとしても、追い込まれて無理やり外していたのかもしれない。最後にどうしても得点が必要な時、これまでは放り込み、すなわち、とりあえずゴール前にボールを入れていく形が多かった。アジアであればそれで得点が奪えた場面はあったが、世界のトップクラスを相手に、無理な話だ。

 しかし、あの時は違った。簡単にクロスをあげず、ボールを回して何度も何度もやり直していた。みんなかさにかかって攻めてはいたが、高揚し過ぎたり、セルフィッシュになったりせず、判断を最後の最後まで変える冷静さを持って、最大限の力を発揮した。つまり、沈着冷静に自らのタガを外し、かつ論理性を保っていたのだ。

 僕はずっと、日本人がタガを外すのは難しいと思っていた。リミッターを切れば、制御が難しくなる。制御が難しくなれば、判断は乱れる。それを恐れる面が日本サッカーにはあったからだ。しかし、イタリア戦の日本代表は、あくまで日本人らしく、リミッターを切っていながら、制御が効いていた。

 単純に驚いた、と同時にやれると思った。

 これまでのW杯優勝国には、土壇場で自らリミッターを切れるメンタリティーがあった。「自分たちはW杯優勝に相応しい国だ」と信じきる力が、リミッターを切らせる。そうやって、W杯優勝国はDNAに刷り込まれたようなスタイルを、限りなく感覚的に近い状態で表現する。「自分が」という気持ちを出していくことで、先天的な身体能力も発揮され、シュートまで持ち込む。おのおのが局面を切り開こうとする力によって、相手が吸い寄せられ、シュートができず、パスをせざるを得なくなる。しかしそれが、結果として相手が崩れるということにもつながる。つまり、これまでの優勝国は「自分が」という気持ちがプラスの方向に働いていたのだ。

 そういったところから限りなく遠いところにいる日本は、感覚や身体能力に頼りきったサッカーを目指す必要はない。そうではなく、日本人のDNAに刷り込まれている日本らしさを、タガを外しながらも論理的に表現できれば、日本スタイルのW杯優勝は実現する。

 日本はJリーグが始まって21年目となり、2002年W杯日韓大会から数え、年も過ぎた。僕はJリーグ初年の1993年から1996年までは名古屋グランパスエイト、1997年から2000年までは川崎フロンターレでMFやDFとしてプレーしてきた。1995年度にはアーセン・ベンゲル監督のもとで天皇杯優勝を経験した。1996年からイングランドのプレミアリーグでアーセナルを率いているベンゲル監督とはその後もつながりを維持し、彼は僕のサッカー観に大きな影響を与えてくれている。川崎ではJFLからJ2、J1昇格を経験した。そして、2000年に引退してからは、スポーツジャーナリストとしてサッカーなどの現場を見続け、テレビ解説やラジオのパーソナリティーも務めてきた。

 こうしたピッチの内外にいると、日本サッカーが目覚ましい進化を遂げてきたことが実感できる。今ではアジアでナンバーワンと言われ、それは2014年W杯ブラジル大会で5大会連続出場を決めたことでも証明された。この間、中田英寿、稲本潤一(川崎フロンターレ)、小野伸二(ウェスタン・シドニー・ワンダラーズFC)、高原直泰(東京ヴェルディ)、中村俊輔(横浜F・マリノス)たちがヨーロッパに出て行った時期が、第1次ヨーロッパ進出ブームなら、今は第2次ブーム。再びたくさんの選手がヨーロッパに渡った状況で、その活躍はうれしいことだ。

 ただ、ここから世界のトップ10入りし、W杯優勝を目指そうとする時、これまでとは違う進歩の形が必要だ。今までは海外の良いものを模倣し、技術、戦術の最先端を学んできた。しかし、世界の最先端へ躍り出るためのプラスアルファとして、それらとはまったく違う日本のチカラ、日本スタイルを創り上げることが重要となる。

「マリーシア」より「フットボール・インテリジェンス」

「フットボール・インテリジェンス」というものがサッカーにはある。「サッカーIQ」と呼んでいいのかもしれない。ボールを止めたり蹴ったり、ドリブルやパス、シュートでないサッカーの部分だ。僕自身、サッカーを子供の頃からずっとプレーしてきて、自分はサッカーを理解しているつもりでいた。しかし、サッカーをより深く追い求めれば求めるほど、そうでないことがわかってきた。

 1人の選手がボールを触っている時間は、90分間の試合で2分くらい。とすると、勝つ確率を上げるには、ボールを触っていない時間にいかに考えてプレーするかが重要だ。例えば、前半10分までに「このレフェリーはこういったプレーはファウルをとらないな」と判定基準を見極め、フィジカルコンタクトの質を変えていく。または、「レフェリーが感情的になっている」「ホームの相手に有利なものがある」といった洞察力を磨く。PKで先制したら喜ぶのではなく、「その判断基準からすれば自分たちもPKを取られる可能性が高い」と、逆に自陣ペナルティーエリア内での守備には細心の注意を払う。ピッチ状態が悪ければ、「自分たちがボールを扱いにくいだけでなく、相手も扱いにくいはず。トラップミスをするかもしれない。足をすぐ出せる位置まで寄っておこう」、こんな想像力も必要だ。

 戦う相手、レフェリー、アウェーの観衆など、試合を取り巻く人間の心理を理解したうえで、自分たちがどうプレーすべきかを考える。周囲を変えることができないなら自分たちがどう変わるかを熟考する。そうやって相手を思考的に上回るものがフットボール・インテリジェンスだ。

 マリーシアと呼ばれる、ずる賢さは重要だし、それもある意味フットボール・インテリジェンスに含まれる。ただ、日本が日本という国である性質上、マリーシアを他の国より上手くやりきれるとは思わない。日本人がW杯で優勝するのであれば、徹底して正しく勝つしかないと僕は思っている。馬鹿正直だと思われてもいい。日本は正々堂々とフェアプレーで戦って勝つ。そうでないとW杯優勝はない。そういったフットボール・インテリジェンスを、僕は本書で提示していきたい。

 日本らしい精神性で日本のスタイルをピッチで表現し、フットボール・インテリジェンスを極限まで高めていけば、日本はW杯で優勝できる。

 それを現実のものとして考えよう。


(写真提供:getty images)

日本代表のW杯優勝について、長期的な視点での分析や提言がつまった一冊。
2013年11月13日発売です!

日本代表がW 杯で優勝する日 (朝日新書)
日本代表がW 杯で優勝する日 (朝日新書)

ケイクス

この連載について

日本代表がW杯で優勝する日—列強に打ち勝つための提言

中西哲生

私たちは死ぬまでに日本代表がワールドカップトロフィーを掲げる光景を目の当たりにできるのか? その問いに確信を持ってイエスと答えるのが、テレビ朝日系「Get sports」などで論理的なサッカー解説でおなじみのスポーツジャーナリスト・中...もっと読む

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tommynovember7 ここで言う信じ切るというのは、最後まで集中を切らさないで戦うということ。 約4年前 replyretweetfavorite