天才のつくり方

第7回】「みんな同じ」だと、コンテクストデザインの力は育たない。

日本は同一のバックグラウンドを持っている人が多いため、新しいアイデアを提示してそこに向けてみんなを説得する技術が発達していない。だから、コンテクストデザインも普及していない。既存の権威が崩れつつある今、改めてコンテクストデザインの重要性が問われている。ハーバードは既存の権威の代表でもあるが、一方で権威をぶち壊す人間を次々に輩出してもいる。なぜそんなことが可能なのか? 実質のともなった教育機関のつくり方を探っていく。

コンテクストを考えずに、ラベルで判断してしまう日本人

茂木 日本の教育に、コンテクストデザインが足りないっていうのは、どういうこと?

北川 それについてちゃんと考えだしたのは、以前「説得力」という観点でお話しした(第3回)ように、ハーバードに行ってからです。でもその前から、実は無意識にコンテクストについて考えていたんですよね。

茂木 ほう。例えば、どんなときに?

北川 中学生のとき、ハリー・ポッターシリーズが大好きだったんです。

茂木 ハリー・ポッターが出たとき、中学生だったの? おれもう30代後半だったよ。年齢差を感じるな……。

北川 (笑)。で、もう読み始めると没頭しちゃって、勉強もしないし、部活にも行かない。普通に考えたら、それって良くないことなんですけど、でもハリー・ポッターが読みたいから、なんとかそれを正当化するために一生懸命考えたんです。なぜ、僕はこの本を読むべきなのかって。

茂木 ほう。

北川 で、「僕の人生の喜びは本にある!」と気づいたんです。そして、原書で読んでいたので、「英語の本が読めるようになると、この先の僕の人生できっと役に立つ」と思いました。それで、自分のなかで「ハリー・ポッターを読むのはいいことだ」という筋を通したんです。

茂木 わがままを正当化するための理屈を考えたんだ(笑)。

北川 そうなんです(笑)。

茂木 でもそれは、立派なコンテクストデザインだよね。

北川 はい。そうやってコンテクストを考えていたことが、ハーバードのApplication(願書)のEssay(小論文)にも活かされました。よく、「アメリカの大学入試のEssayを書くときに何が大事ですか?」って聞かれるんですけど、「自分の人生のコンテクストをデザインすることを意識してみて」と答えています。それをちゃんと文章で説明できれば、説得力が出ます。

茂木 北川はどういう文脈で書いたの?

北川 僕の当時の強みは、補欠でしたがテニスの関西代表に選ばれたこと、テキサスのTAPPSという州立科学コンテストで1位になったこと、化学オリンピックで最優秀賞を取ったことなどでした。これらの業績を、自分が本当に価値があると思うこととどうリンクさせるか、というのがEssayを書くときの肝だったんです。
 当時、実は今でもそうですが、僕が学問に見ている美しさは、「人と議論してアイデアを高めていく」という部分にありました。この視点はきっと、根源的に「人間と何かをするのが好き」という性格と、「学問することが死ぬほど好き」という2つの「自分の強み」からくることだな、と理解したんです。そして、それらを中学、高校時代の体験に基づいてサポートするようなEssayを書きました。自分の本質と価値を、自分の体験というコンテクストに据えようと努力したんですね。

茂木 あぁ、いいね。ハーバードは入試の時点で、コンテクストデザインが必要なんだな。アメリカは、いろんな人種の集まりだから、コンテクストをdescribe(記述)することを余儀なくされた国なんだよね。日本みたいに、なんとなくわかってもらえることなんてないから、コンテクストをすごく大事にする。
 それに対して、日本というのは「ラベル」を重視する傾向があるよね。

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天才のつくり方

茂木健一郎 /北川拓也

日本経済が停滞して久しい。一方で、アメリカではIT産業の新しい成功モデルがどんどん生まれている。この違いはどこにあるのか。 ここで登場するのが2人の天才。高校卒業後、8年間ハーバード大学で活動している理論物理学者・北川拓也。一方、1...もっと読む

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