コンテクストを考えずに、ラベルで判断してしまう日本人
茂木 日本の教育に、コンテクストデザインが足りないっていうのは、どういうこと?
北川 それについてちゃんと考えだしたのは、以前「説得力」という観点でお話しした(第3回)ように、ハーバードに行ってからです。でもその前から、実は無意識にコンテクストについて考えていたんですよね。
茂木 ほう。例えば、どんなときに?
北川 中学生のとき、ハリー・ポッターシリーズが大好きだったんです。
茂木 ハリー・ポッターが出たとき、中学生だったの? おれもう30代後半だったよ。年齢差を感じるな……。
北川 (笑)。で、もう読み始めると没頭しちゃって、勉強もしないし、部活にも行かない。普通に考えたら、それって良くないことなんですけど、でもハリー・ポッターが読みたいから、なんとかそれを正当化するために一生懸命考えたんです。なぜ、僕はこの本を読むべきなのかって。
茂木 ほう。

北川 で、「僕の人生の喜びは本にある!」と気づいたんです。そして、原書で読んでいたので、「英語の本が読めるようになると、この先の僕の人生できっと役に立つ」と思いました。それで、自分のなかで「ハリー・ポッターを読むのはいいことだ」という筋を通したんです。
茂木 わがままを正当化するための理屈を考えたんだ(笑)。
北川 そうなんです(笑)。
茂木 でもそれは、立派なコンテクストデザインだよね。
北川 はい。そうやってコンテクストを考えていたことが、ハーバードのApplication(願書)のEssay(小論文)にも活かされました。よく、「アメリカの大学入試のEssayを書くときに何が大事ですか?」って聞かれるんですけど、「自分の人生のコンテクストをデザインすることを意識してみて」と答えています。それをちゃんと文章で説明できれば、説得力が出ます。
茂木 北川はどういう文脈で書いたの?
北川 僕の当時の強みは、補欠でしたがテニスの関西代表に選ばれたこと、テキサスのTAPPSという州立科学コンテストで1位になったこと、化学オリンピックで最優秀賞を取ったことなどでした。これらの業績を、自分が本当に価値があると思うこととどうリンクさせるか、というのがEssayを書くときの肝だったんです。
当時、実は今でもそうですが、僕が学問に見ている美しさは、「人と議論してアイデアを高めていく」という部分にありました。この視点はきっと、根源的に「人間と何かをするのが好き」という性格と、「学問することが死ぬほど好き」という2つの「自分の強み」からくることだな、と理解したんです。そして、それらを中学、高校時代の体験に基づいてサポートするようなEssayを書きました。自分の本質と価値を、自分の体験というコンテクストに据えようと努力したんですね。
茂木 あぁ、いいね。ハーバードは入試の時点で、コンテクストデザインが必要なんだな。アメリカは、いろんな人種の集まりだから、コンテクストをdescribe(記述)することを余儀なくされた国なんだよね。日本みたいに、なんとなくわかってもらえることなんてないから、コンテクストをすごく大事にする。
それに対して、日本というのは「ラベル」を重視する傾向があるよね。
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