すき焼きが「ごちそう」に属すると知ったのは、『ドラえもん』とか『サザエさん』だったように思います。「今夜はすき焼きよ」と言われてワーイとバンザイしたり、兄弟姉妹で肉を取り合ったりする場面を見て、そういうものなんだな、と学習したわけです。そのおいしさ、ありがたみを、私自身が実感していたわけでは決してない。
問題は、あの味付け。ケーキとかチョコレートより都こんぶとかせんべいが好きな子供にとっては、食事は塩分摂取の場。すき焼きは、甘すぎるんですよね。牛肉の値段なんて知らなかったから「すき焼き=高価=ごちそう」という図式も見出せず、家族五人で鉄鍋を囲んでワイワイやっている最中に疑義を申し立てるわけにもいかず、〆のうどんが投入されると内心「これで甘味地獄から抜け出せる」と安堵したものです。
酒を飲みだしてからも、あの甘い肉で飲みたいと思ったことはなく、牛肉の値段を知ればなおさら「豚で充分うまいから!」「牛は外食で足りてるし!」。三年か四年に一度、たまたま外で食べて「そうそう、こういうもんだよね」ということを確認できれば、それで充分。私にとってすき焼きとはそういう食べ物でした。
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