白河桃子さん著『格付けしあう女たち』発売記念特別座談会。
最初のテーマは「ママカースト」です。
たとえば、お金持ちバリキャリママの間での、互いのランクを判断する一つのキーアイテムが「ロンハーマン」。 ハリウッド発祥のセレブ御用達高級ファッションブランドですが、ここのアイテムをさらっと着こなしているかどうかが、お金持ちママたちの間で勝ち負けを決める、とても小さな、けれど重要な「ツボ」だと言います。 高級主婦雑誌「VERY」に見られるような、優雅できらびやかなママ像がもてはやされる一方で、現実のママたちの姿はさまざま。けれど、古い幸せの価値観に未だに縛られるからこそ、苦しむ女性たちがいる。ママ友たちの間でついつい比べあい、格付けしあってしまうママたちの“意外な葛藤”から、日本の女性のキャリアの問題が浮き上がってきて……?
●座談会ゲスト
Aさん(35歳) 江東区のタワーマンション在住。夫は国家公務員勤務。小学校5年と幼稚園年中の娘2人。妊娠を機に退職。
Bさん(43歳) 世田谷在住。幼稚園年中の娘が1人。医療系コールセンターで働いていた。夫はフリーのライター。
Cさん(38歳) 小学校低学年の息子1人、幼稚園年中の娘1人。証券会社で営業を経験し、結婚を機に退職。現在は専業主婦。
Dさん(40歳) 小学校低学年の息子1人、幼稚園年長の娘1人。夫は開業医。現在は専業主婦。ママ友との関係から、幼稚園を変えた経験がある。
6000万円のタワマン、高くないよね……?
白河桃子さん(以下、白河) みなさんは生活の中で「カースト」を感じたことはありますか?
Aさん 江東区のタワーマンションに住んでいます。今娘が通っている小学校は、そのほとんど全員が4棟あるタワーマンションのうちのいずれかから通ってくる。
白河 全員って、すごいですね。タワーマンション、価格はいくらくらいなんですか?
Aさん いえ、タワマンと言ってもそんなに高くないです……6000万円くらいですよ。
ザーッ(周囲が引く音)
Aさん でも、下の幼稚園の子になると、場所が少し離れて、タワーマンションに住んでいる子と、昔からそこに住んでいる下町の家庭の子の両方が通ってくるので、どうしても身なりや暮らしぶりから年収の差が透けて見えてしまい、自然と両者の間に溝ができてしまいます。
白河 幼稚園のママ友のランチ会の値段は平均どれくらいなんですか?
Aさん 暗黙の了解で1000円まで。でも、個別のグループになると、たまには美味しいもの食べに行こうよってなった時に、気を使わずに誘える人と誘えない人が出てきてしまうので、結局仲良くなるのは、意識していなくても、同じタワマンに住む奥様たちになってしまうことに最近気づきました。
白河 そういう場合のランチの値段はいくらくらいなんですか?
Aさん 5000円だったら5000円払うし……自分たちが行きたいお店に行きますね。銀座まで出たり。
白河 払えるランチ代によって、行動範囲も違ってくるんですね。
Aさん はい。だから、子どもの進級などで、新しいママたちと知りあって、みんなでランチに行こう、となった時は緊張します。 お互いに、夫の年収や生活水準のさぐりあいで……。なんとなくのグループに分かれるまでは、いちいち気づかいの連続ですね。
白河 年収や生活水準によって人間関係に亀裂が生まれる経験は、他にもありますか?
Bさん 子どもが小学生で、近所の大型のマンションに住んでいるママたちと同じ小学校に通わせているのですが、そのママたちの間では「◎棟は貧乏棟」と言われて、そこに住む人が差別されています。日当たりとか立地で、あそこは値段が安い、みたいな……。
白河 Bさん、世田谷ですよね? 世田谷にもそんなマンションが……。
Bさん でも、世田谷だとマンションは少数派です。みなさん持ち家で、代々世田谷に住んでいて、という人も珍しくない。たまにすごい豪邸に住んでいるママもいて……。娘の同学年のママたちを何十人と呼んで、おもてなしをしてくれたりとか。
白河 雑誌「VERY」に出てくるようなママって実在するんですね。
Bさん 私の住んでいるマンションはそんなに広くないのに、お呼ばれすると、呼び返さないといけないような暗黙の了解があるので、心苦しいです。
「子どもが人質」の交友関係
白河 この人ちょっと……みたいなお母さんっていますか?
Cさん 知人が「卒園したから言えるのだけど、幼稚園のママグループから抜けるのは本当に大変だった」とこぼしているのを聞きました。 リーダー格の人の機嫌を損ねると、いろいろきついことを言われたり仲間はずれにされたりするので、ずっと気をもんでいたそうです。 その人は、有名幼稚園のとても仲良しのママグループに属していて、全員習い事も一緒。私は「仲が良くていいなー」と思って見てたんですが……。
白河 子ども同士の仲がいいと、本当は嫌でも離れられない、とか。
Aさん 私は下の子どもがミュージカルのスクールに通っているのですが、そこのママでリーダー格の人がいて、なんとなく気があわないなと思っているのですが、他のママに「あの人が、子どものミュージカルの配役を決める権利を握っているから、機嫌を損ねないほうがいいよ」と耳打ちされ……。子どもの習い事なのに!
白河 それはきついですね。
Aさん 本当は嫌だけど、娘がスクールを気に入っているので、辞めるに辞められません。
白河 「子どもがいじめられたら……」みたいなプレッシャーで、単独行動をどうしてもためらってしまう?
Cさん そうそう。あのママは嫌いだけど、小学校が一緒だから敵には回せない、とか、上の子が卒園しても、下の子がどうせ幼稚園で同じ代になるから、仲良くしないといけない、とか。
Bさん 独身の頃は、純粋に気があう人と付きあっていたけれど、おかあさんになると、先を見越して人間関係を維持しないといけない。
Dさん 自分以外のしがらみを優先して、嫌でも子どものためなら……と。 まさに、子どもが人質ですよ。
“お受験”掲示板で大炎上
白河 小学校受験はどうですか?
Aさん 小学校受験も大変です。ママ同士、どんなに仲良くても、どこを受ける、とかは絶対に言わない。子ども自身も言わない。記念受験というのもあるので。お互い、探りあいですよ。
白河 とある小学校お受験用掲示板で、ある人が、我が子が難関小学校に受かったことが嬉しくて「○○と××、両方受かりました!」と無邪気に書き込んでしまったんです。それがきっかけで掲示板が大炎上。「この時期に2つ受かっているということは、まだ片方に入学辞退をしていないということですよね?補欠で落ちた人のことを考えられないんですか?」「非常識な!あなたのせいで××小学校に入れない人がかわいそう」「○○小学校の合格発表で大騒ぎしていた人ですよね?お子さんの顔、覚えていますよ」など、大バッシングが……。
Bさん うわー!まさにホラーですね。そういうことが起きないためにリアルでは絶対にお互い(どこを受験するかは)明かしません。
(後編へつづく)
イラスト:峰なゆか
●12月4日(水)に宇野常寛さんと白河桃子さんのトークイベントを行ないます。新著『格付けしあう女たち』で「女子カースト」を取り上げた白河さんに、スクールカーストにおけるコミュニケーションの問題を議論してきた宇野さんが迫る!!
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格付けしあう女たち (ポプラ新書) 白河 桃子 |