居酒屋サッカー対談

前編】日本人はサッカーを楽しめているのか?

清水英斗さんのcakes連載「居酒屋サッカー論 ~誰でもわかる深いサッカーの観方~」が書籍化! それを記念して、フリーライターの速水健朗さんと対談を行いました。若手随一のサッカーライター清水さんと、サッカー好きを公言しているうちにサッカー誌二誌での連載を持つことになった速水さんから出てきたのは、「新しいサッカーの楽しみ方」。フォーメーションや数字だけに縛られない、サッカーが100倍楽しくなる話が満載の対談を前後編に分けてお届けします!

サッカージャーナリストを目指した理由

速水 清水さんとは「wowowプラスト」で共演させていただいたりしてましたが、cakesの「居酒屋サッカー論」の連載もすごくおもしろく読んでいました。

清水 おお、そうだったんですね。ありがとうございます!

速水 それでこの度『だれでもわかる居酒屋サッカー論』(池田書店)として書籍化されたわけですが、清水さんは基本サッカー専門系の媒体でお仕事されてますよね。

だれでもわかる居酒屋サッカー論
だれでもわかる居酒屋サッカー論

清水 そうですね。

速水 「サッカーにも将棋のように感想戦の場を」というテーマで書かれていましたが、cakesっていうサッカー専門でないサイトで、それほどコアに見ていない人にもわかりやすくサッカーを解説するのが清水さんの連載のおもしろさだと思いました。

清水 なんか恥ずかしいですね(笑)。

速水 cakesの読者は清水さんの連載を読んでいても、清水さんがどういう方なのかを知らないひとも多いと思うんです。その辺りからお話を伺いたいんですが、清水さんはどうやってサッカーを専門に書く「サッカージャーナリスト」を名乗るようになったんですか?

清水 もともと自分がサッカーやっていて、サッカーについての書き手になりたくてドイツに渡ったんです。

速水 え、いきなり!?

清水 はい。それでしばらくドイツに住んでいたんですが、そこで林雅人さんっていう向こうでサッカー指導者をされていた方に出会ったんです。林さんにサッカーの話を聞いているうち、サッカーの見方がまるで変わってしまった。

速水 ほう! 何があったんですか?

清水 サッカーってフォーメーションがありますよね。4-2-3-1とか、3-3-3-1とか。それまでフォーメーションをチェックしながらサッカーを見ていたんですけど、林さんに話を聞いてそれは単に形をチェックしていただけってことに気がついたんです。林さんはフォーメーションの相手とのかみ合わせによってどういうことが起きるのかってことを試合前に考えていて、それを確認する作業のように試合を見ていたんですよ。それが深くて論理的で、自分が経験したサッカーとはまるで違う世界でした。

速水 おお、なるほど。確認として見るっていうのは僕たち素人にはない考え方ですね。じゃあ林さんとの出会いは清水さんにとって大きかったわけですね。

清水 そうですね。それで、オランダで勉強された林さんからオランダ的なサッカー観を教わって、それからイタリア、スペインにも回ってヨーロッパのサッカーを勉強したんです。帰国してからは『ストライカー』っていうサッカー雑誌に携わって、物書きとしての技術的なことも勉強しました。本当に林さんとの出会いが転機になって勉強していって、それがたまたま自分の個性になったっていう感じですね。

速水 なるほど、なるほど。でも、その個性が今の日本で受けてるっていう実感はあるんじゃないですか?

清水 やっぱり、100年以上の歴史があるヨーロッパに比べて、日本のサッカーの歴史が本格的になってきたのって、まだ20年ちょっとなんですよ。見ている人の間にも知識のバラツキがある。僕はできるだけ100年以上の歴史で培われた普遍的なサッカーのおもしろさを伝えようとしているので、そこが僕の本が色々タイプの人に手に取ってもらえている理由なんじゃないかなと思っています。

速水 清水さんが書いたものを読むと、なるほどそこを見ればいいのかって思わせてくれるポイントがたくさんあるんですよね。どうしても見るポイントって素人には気付づきにくい。それはサッカーだけじゃなくて、僕はもう3年ぐらいジョギングをやっているんですけど、一向にタイムが向上しない。でも、そこで1回でもスクールに行くと「あ、たまにダッシュを入れると筋力が上がるんだ」っていうことが一発でわかったりする。

清水 そういうことありますよね(笑)。だから、僕はサッカーをもっと楽しみたいって思っている人に引き出しを提供できたらな、と思ってライターをやっているんです。最近はスタジアムにも家族連れや若い女の子の姿も多いですから、ニーズはあると思うんです。

ブラジル流サッカーの楽しみ方

速水 連載でも書かれていましたけど、清水さんはブラジルで行われたコンフェデレーションズカップに行ってましたよね。

清水 いやあ、ブラジル人の楽しみ方には圧倒されました!

速水 やっぱりそんなに違うんですか?

清水 自国を応援するときに盛り上がるのは普通だと思うんですけど、ブラジル人は第三者の国を見るときも大盛り上がりなんですよ。普通だったらどうやって見るか迷って楽しめなかったりするんだけど、彼らはもう圧倒的にどちらかのチームについちゃうんです。

速水 日本とかタヒチみたいな、ブラジルと比べてあんまり強くないチームに対して「頑張れ、頑張れ」みたいな(笑)。

清水 そう、そんなチームがいいプレイを見せると「意外と良い試合やるじゃないか?」っていうことでさらに盛り上がる。自国と全く関係ない国なのに、拍手だけじゃなくブーイングまでしちゃうんです。中立だとプレーに対するリアクションができなくなりますからね。楽しみ方がうまいなあ、という感じがしました。

速水 おもしろいですねえ。僕は奥さんと一緒によくサッカーを見るんだけど、未だにサイドバックとサイドハーフの違いもわかっていないし、「ラインの裏に飛び出す」っていう解説の意味もわかっていない(笑)。だけど、よっぽど僕より楽しんで見ていて、もう人間関係とかで見るんですよね。「◯◯選手と相手チームの××選手は同じ国の代表で、今の握手のとき笑ってた!」みたいな。

清水 わかります(笑)。うちの奥さんはドルトムントのファンなんですけど、もう「ドドドドドッ」って感じが好き!とか言って楽しんで見ていますからね。

速水 そうそう(笑)。でも、日本ではそういう見方よりも戦術が重視されますよね。新しいサッカー戦術本もどんどん出版されてる。海外にはああいった本はあるんですか?

清水 僕が知っている限りはほとんどないです。書籍で「サッカーを読む」っていう考え方がまずない。あるとしたら指導者が読む実用書か、有名な監督や選手の自伝ぐらいでしょうね。

速水 戦術ってサッカー全体からしたらごくごく一部だと思うんですよ。清水さんの本はもっと広く捉えているように見えます。

清水 というよりも、僕は戦術を「どうやって勝つか」というすごく広い捉え方をしているんです。

速水 戦術という考え方自体が広いんですね。

清水 はい。極端に言えば、選手が試合の前日に油物を控えるとかだって戦術だし、サポーターが相手選手を野次るのだって戦術って考えられる。

速水 ああ、なるほど。

数字だけでは表現できないサッカーの魅力

速水 清水さんの言う「戦術」の話と共通すると思うんですが、最近はサッカーの試合が数値化されるようになりましたよね。

清水 ブンデスリーガなんかは、スプリントの回数やスピード、運動量まであらゆる数字が出ていますし、サッカー業界全体でその流れは進んでいると思います。でも、実は僕は意識的に数字を持ち込まないようにしているところがあるんです。

速水 あ、そうなんですか。清水さんが連載で「現代サッカーにおける得点の3割はセットプレーによって決まる。だから日本は特別セットプレーに弱いわけじゃない」とおっしゃっていて、すごく納得していたんですが。

清水 そうでしたね(笑)。僕は数字で表現することに向いているスポーツと向いていないスポーツがあると思っているんですよ。例えば、野球は打率、打点、出塁率などバーッと数字で並べると、誰が優れたバッターかがわかるじゃないですか。

速水 新聞に30傑とかまで出してます。野球ってそこが楽しめるスポーツではありますよね。

清水 そうなんです。でも、サッカーの場合、得点ランキングが必ずしも優れたフォワードを表しているわけではない。それだけでは前線から献身的な守備をするフォワードの良さとかがわかりませんよね。

速水 なるほど。たしかに数字だけでは説明がつかない要素が多い。

清水 有名な話ですが、マンチェスターユナイテッドのアレックス・ファーガソン監督*1がディフェンダーのヤープ・スタムっていう選手をタックルの数字で判断して他のチームに放出してしまったんです。そうしたら、いきなりディフェンスがガタガタになってしまった。実はスタムはタックルしなくて済むようなより効果的なディフェンスをしていたんです。サッカーってそういう数字で表せないグレーな部分に本質がある気がするんですよ。
*1 1986年より27年間もの間プレミアリーグのマンチェスター・ユナイテッドFC監督を務めた名将。

速水 確かに全てを数字で語り出すと、サッカーならではのおもしろさみたいなものが失われてしまうかもしれない。あと、サッカーファンの数字嫌いということもありますよね。数字や統計で語られているサッカー本のAmazonのコメントを見ると、必ず「数字でサッカーは語れねえ!」みたいな批判がたくさんつくんですよ。

清水 数字は読者を説得する材料として補足的に必要かもしれないけど、それはあくまで一つの見方でしかないんです。勘の鋭い人ならわかったかも知れませんが、「なぜ、ザックジャパンはセットプレーに弱いのか?」も言ってみれば数字のトリックですよ。

速水 はいはい。

清水 サンプル数が少ないし、アジアだとセットプレーしか決め手がないようなチームとの試合が増えて、どうしても割合が増えてしまう。そういった確率のゆらぎを踏まえた上で、日本のファンの多くが持つ「日本はセットプレーに弱い」っていう固定観念を破ってほしい。

速水 なるほど。そういう見方ができたらまた視野が広がりますよね。

清水 例えば、ガンバ大阪はけっこうセットプレーからの失点が多いんですけど、そうするとサポーターは「なんでこんなにセットプレーに弱いんだよ!」みたいに怒り心頭になるんです。でも、ガンバは背が低くても足元のうまい選手が揃っていて、おもしろいパスサッカーでガンガン点を取るスタイルなんです。その分背が低いからセットプレーで失点するリスクを負っている。その辺りを理解して楽しめたらもっと楽しいんじゃないかなと。

速水 なるほど。スペインだとカタルーニャ*2の人はバルセロナがセットプレーで点を取られることぐらい織り込み済みですからね(笑)。
*2 カタルーニャ州はスペイン北東部に位置し、カタルーニャ人は民族意識が強い。中でも州都バルセロナにあるFCバルセロナはカタルーニャ民族主義の象徴とされ、熱狂的なファンを多く持つ。

清水 織り込み済みです(笑)。5-0で勝つこともあれば、セットプレーで失点して1-0で負けることもある。そこを織り込まなきゃ、5-0の試合は生まれないよってことです。そういう意識を広げていきたいですね。

(次回は11月13日掲載予定)

ケイクス

この連載について

居酒屋サッカー対談

清水英斗 /速水健朗

清水英斗さんのcakes連載「居酒屋サッカー論 ~誰でもわかる深いサッカーの観方~」が書籍化! それを記念して、フリーライターの速水健朗さんと対談を行いました。若手随一のサッカーライター清水さんと、サッカー好きを公言しているうちにサッ...もっと読む

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コメント

rutti516 サッカーは数字で測れないから面白い! 約4年前 replyretweetfavorite

sisley0826 うわ…名前があべこべ 失礼な“@cakes_PR: 清水健朗さんと速水英斗さん、二人のライターが語る「新しいサッカーの楽しみ方」。フォーメーションや数字だけに縛られない、サッカーが100倍楽しくなる話が満載の対談 https://t.co/IpZG1WvXjk #サッカー” 約4年前 replyretweetfavorite

TuesdaySince http://t.co/qeXEMAhpZZ 居酒屋サッカー対談 約4年前 replyretweetfavorite

sammy_sammy これは良対談!  約4年前 replyretweetfavorite