「操り人形」の糸を自ら動かす
「日頃テレビとかラジオとかやらせてもらって、目の前にお客さんがいないから誰に向けて発信しているのかわからなくなって。何のためにやっとんのじゃろとか思う時があって」
2009年5月10日の午後9時ごろ、国立代々木競技場第一体育館。新旧の楽曲をノンストップで踊りまくる「代々木ディスコMIX」(パッケージ化されていないが、Perfumeの歴史上屈指のパフォーマンスだったと思う)を披露した直後、あ〜ちゃんはステージ上で感極まりながら満員のオーディエンスにこう語りかけた。
「代々木ディスコMIX」LIVE映像(非公式)
涙声で語られていく「自分たちがPerfumeであるための葛藤と決意」を、スタンド席でこのライブに参加していた僕は複雑な思いで聞いていた。「わかるよ!」と共感してあげたい一方で、その共感こそが彼女たちを苦しめているのではないか。そんな引き裂かれた感情が体の中を支配していた。
07年に『ポリリズム』でブレイクして以降、08年の彼女たちの活躍はまさに破竹の勢いだった。4月リリースのアルバム『GAME』が幅広い層から支持を獲得して全国ツアーも大成功。7月リリースのシングル『love the world』が初のシングルチャート1位を獲得(チャートがまだ「複数買い」というドーピングに完全に侵される前の話である)。11月には初の武道館2デイズを実施。年末には念願の紅白歌合戦への出場。
Perfume『love the world』ミュージックビデオ
最近ではロックバンドでも体現することが少なくなった文字通りのサクセスストーリーを、僕はファンとしてただただ興奮しながら体験していた。しかし、状況の急激な変化に対して、おそらく彼女たちは心身ともに疲れ果てていたのだと思う。
冒頭に紹介したMCでは「目の前にお客さんがいないテレビやラジオ」についての言及があったが、特に当時の「テレビとの距離の取り方」は今振り返ってみるとなかなかスリリングだった。もしかしたら、グループとしてどのような方向に舵を切っていくのかあいまいな部分もあったのかもしれない。もちろん、それゆえに今ではお目にかかれないような楽しい企画もあったし、僕自身も「露出の増えたPerfume」を存分に楽しんでいたのだが……。
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