新聞のひとつの小ネタから、「アフガニスタン特集」は生まれた
—— 嶋さんと中川さんが一緒にされた仕事というと、「赤坂のカエル」のクライマックスでもある、『広告』リニューアル号のアフガニスタン特集の時のお話を伺いたいです!
中川 あのアフガニスタン特集の『広告』(2002年4月発売)は、本当にいい本になりましたよね。オレからみると、あの雑誌は嶋さんが初めての編集長として、ものすごく不安になりながら作った雑誌でもあった。嶋さんが、「はたして、俺が編集長として作った雑誌が売れるのだろうか?」っていう、ビビリながらの境地で作った本なんですよ。今では余裕でいろんな雑誌をつくっている嶋さんですが、あの雑誌にはそれとは全然違う緊張感が漂っているんですよね。
嶋 下北沢のバー。“レディジェーン”で最初の打ち合わせをしたんだよな。あの店は松田優作が通った店だから覚えておいてね。
中川 そうそう。深夜2時ぐらい嶋さんに呼ばれて、オレはのんきに「編集長おめでとうございます!」なんて言ってました。そしたら出会い頭に「中川、アフガニスタンに行け。それで女子アナとスッチーに会ってこい」って言われて。
嶋 言われたほうは、意味わからないよね(笑)。
中川 わからないですよ。そもそもアフガニスタンに女子アナとスッチーがいるのかわからないですもん。そしたら嶋さんも「多分、いると思う」なんて適当なこと言うし。「今のアフガニスタンって命がけで行く場所だぞ! 戦地だぞ! それなのに確証ねーのかよ、このヤロー!」って内心思ってました(笑)。
でも、なんであのとき、アフガニスタンを特集しようと思ったんですか?
嶋 いやあ、ちょうどそのとき「ヘラルドトリビューン」(ニューヨークタイムズとワシントンポストが発行する新聞)を読んでたら、タリバン政権が崩壊して今まで禁止されていたテレビ放送が始まるとか、国際線にキャビンアテンダントが復活する記事を読んだわけ。まあ、だから女子アナとCAはまさにコミュニケーションの象徴だし、「広告」が話を聞きにいくべきだろ?
中川 それが思いつきの発端だったんですか。
嶋 そうそう。そもそも、当時の『広告』は業界の人しか読んでいなかったから、もっと一般人が手に取ってくれるような普通の雑誌にしたかったんだよね。
中川 当時、嶋さんはこどもたちに「写ルンです」を配りまくって自由に撮らせた『チルドレンズ』っていう写真集を作ってたから、それで第1特集が「こども」になったんですよね。
嶋 こどもが撮影する写真は全部ローアングルだろ。だからみんな構図が小津安二郎の映画みたいになるわけ。そこも面白い。でも、こどもは事情にまみれずホントに好きなものに対して一直線でしょ。だから撮られる写真もその子の関心事がそのまま表現されるわけ。だからリニューアル号の第1特集は「こども力」ってテーマで事情にまみれず好きなことをやり通す人たちの特集にした。で、第2特集は社会派な視点にしたかった。で、アフガニスタンに中川に行ってもらおうとおもったわけ。週刊誌的なのりで。
中川 当時イラク戦争まっただ中で、アフガニスタンがアメリカにどれだけ虐げられているかっていう観点の報道が多かったんですよ。でもそうじゃなくて、嶋さんはもっと違う視点でアフガニスタンの記事を作りたかったんですよね。そこで、「人気女子アナ10連発!」とか「美人スッチーの私生活に接近!」みたいな週刊誌のノリを、アフガニスタン版でやろうとした。いま思えばネット的な記事でしたね。
嶋 そうそう。ネット的感覚は当時からあったのかもね。
「売れる雑誌の法則」で、急遽アフガニスタンの取材先が増えた
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