いまここ」を超えるために旅は続く【前編】

いまつぶやきたいけど、情報を発信したいけど、時間が足りない、身体がもたない。そんな経験はありますか? 東浩紀さんは「いまここ」の評価をめぐるソーシャルメディアでの争いが行き着く先は、純粋な消耗戦、つまり体力勝負だと言います。そういった限界を超えるためにできることはなんなのでしょうか。いよいよ本連載も最終回です。 広大なネット空間から無限の情報を引き出せる時代、私たちはどのように「うまく生きていく=検索をかける」べきなのか。縦横無尽に活躍を続ける評論家・東浩紀さんによる連載放談です。

これからの七年間

 二〇二〇年、東京で夏季オリンピックが開催されることが決まりました。東京オリンピックというと、いわゆる「文化人」には否定的なひとが多いようです。ぼくのまわりでも、招致活動の最中から批判的な意見が多く聞こえました。

 しかしぼくは、大量の外国人がやってくることで、日本のあるがままのすがたが曝け出されるいい機会だと捉えています。汚染水問題をはじめ、原発処理に世界から厳しい視線が向けられ続ける。これはいいことです。連載第五回で紹介した「福島第一原発観光地化計画」にとっても追い風になるはずです。ぼくたちは五輪を利用すべきです。

 他方で政治的に言えば、東京オリンピックの招致成功は、連載第三回で記した政治的停滞をいよいよ強固なものにしたように見えます。最近も堺市長選で維新の会が敗北しましたが、現在、日本の政治は、「絶対安定で寄り合い所帯の自民党」対「正しいことは主張するけれど無力な野党」という後期昭和の図式に急速に戻りつつある。五輪招致の成功はその図式を強化しました。
 民主党は早くも壊滅状態ですし、第三極を中心に「政治が変わる」ことはしばらく期待できそうにない。ゼロ年代の後半から、日本の若手言論人は政治に急速に接近していきました。津田大介さんが典型的な例です。その背景には政治の変化への期待があった。けれどもいま急速に風景が変わりつつある。

 そこでぼくたちはなにをすべきか。難しいところですが、ぼく個人について言えば、ぼくはこれからは文化面の活動に戻りたいと思っています。それは必ずしも、社会を変えることを諦めたということではありません。
 ただ、政治家に近づいたり、メディアで社会変革を訴えるのとは別に、もう少し間接的な方法を取っていきたいと思っているということです。現実をそのまま変えるというより、その前提となる「想像力」を変える方法。「福島第一原発観光地化計画」はその一環です。

 美術史や建築史では、一九七〇年の大阪万博をきっかけに「前衛が死んだ」と言われます。それまで前衛と見なされ、社会的価値観に抵抗するように活動していた若い芸術家たちが、体制側に取り込まれてしまったからです。東京五輪でも同じことが起こる可能性があります。

 しかしそれをどう捉えるかは難しい問題です。前衛が本来持っていた輝きが失われてしまったとも言えるし、若い芸術家に世界にアピールする舞台が与えられたとも言える。

 いずれにせよ、二〇二〇年に向けて、文化と政治の関係はこれまで以上に複雑かつ微妙になっていくはずです。いまはまだ反権力や反オリンピックを叫べば格好がついている。けれどだんだんと様子が変わってくる。これは決して抽象的な話ではなく、五輪開催を機にかなり国や都から下りてくるであろう文化予算がどこに配分されるのかという、とても生々しい話でもあります。
 そこで「乗る」のか、それとも断固協力を拒否するのか、文化人やクリエイターはいろいろ難しい判断を迫られることになるでしょう。ぼくはいまのところ、さきほども述べたように「乗る」ほうがいいという判断ですが、それも数年後にはどうなるかわかりません。

結局体力が限界を決める

 今回で一年間にわたる連載も最終回です。この連載では、ぼくの現実の旅の経験を交えながら、どこからでも情報にアクセスできる現代だからこそ、身体を移動させて未知の環境に身を置くこと、すなわち「旅」をすることが重要であるという話をしてきました。
 一般に身体が重要だという主張をするひとは、言葉や記号の世界を軽視しがちです。ぼくの主張はそれとは異なり、言葉や記号の世界を徹底的に活用するためにこそ、じつは身体の変化が重要になるというものです。自室に籠もってネットをやっているだけでは、そもそも広大なネットにアクセスできない、それがこの連載のポイントです。

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検索ワードをさがす旅【第2期】

東浩紀

検索すればあらゆることがわかる時代。日々たくさんの情報に埋もれているけれど、果たして本当に欲しい情報はなんなのか。その検索ワードはどこから思いついたのか。テーマはズバリ、「若者よ、スマホを持って旅へ出よ」。ただし、自分や目的を探すので...もっと読む

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