グリード

序曲 スリーピング・ボム 4—二〇〇七年二月九日 ニューヨーク ミッドタウン

住宅バブルの異変を感じたジャッキーは、クライアントにサブプライムローンを買わないようアドバイスします。しかし、同じ会社のサブプライムローンを扱う部署の男からは、自分たちの邪魔をするようなら覚悟しておけと脅されてしまいます。そんなとき、ジャッキーは格付け機関の友人から重大な情報を手にして……。数々の企業小説を世に送り出してきた真山仁さんの最新作『グリード』(講談社)の序曲「スリーピング・ボム」をcakesで特別配信です。

『グリード』の熱い書評(by永江朗氏by関口苑生氏)も、ぜひご一読ください。

二〇〇七年二月九日 ニューヨーク ミッドタウン

 カリカリに焼いたベーコンとフライドエッグを挟んだベーグルサンドの匂いが、エレベーター内に充満していた。扉近くに立っていた上司に眉をひそめられて、少しでも匂いを取り込もうと、ジャッキーは思いっきり深く息を吸った。そのせいで腹が鳴り、エレベーターの中に忍び笑いが広がった。
 フロアに到着するなり、上司が呆れ顔で首を振った。毎朝セントラルパークを五キロ走り、ベジタリアンを自認している上司からすれば、ジャッキーの朝食は自殺行為に見えるのだろう。

「たまには別の物を食ったらどうだ」
 大柄というだけでは理由にならないジャッキーのウエイトオーバーが、上司は気に入らないのだ。
「今朝は、レタス増量のスペシャルなんです。それに、コーヒーのミルクを抜きました」
 並んで廊下を歩きながら、ジャッキーは抗議した。
「油分や塩分の取り過ぎはストレスの元だ。そのうえコーヒーは、イライラを助長する」
「なるほど。でも、食事ぐらい好きに楽しまないと、ストレスがたまるばかりじゃないですか」
 個室に入りかけた上司が振り向いて、自席に着いたジャッキーを指さした。
「そこで食べるなよ。食事は、休憩室だ」
そんな堅いこと言わないで。既にベーグルにかぶりついていたジャッキーは、パソコンを起動させるためにディスプレイと向き合った。同時に画面中央に貼られたピンク色のポストイットが視界に飛び込んできた。

 〝至急、オアシス・デスクまで来い! R.J.〟と走り書きされていた。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes・note会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

ケイクス

この連載について

初回を読む
グリード

真山仁

真山仁さんの最新作『グリード』(講談社)が10月29日に発売となりました。バブル崩壊後の日本を舞台に、外資系バイアウト・ファンド(ハゲタカファンド)マネージャー鷲津政彦を中心に、不良債権処理や企業買収といった金融の世界を描...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

Tweetがありません