グリード

序曲 スリーピング・ボム 2—二〇〇五年秋 カリフォルニア州 ナパ

真山仁さんの「ハゲタカ」シリーズ第4作目となる『グリード』(講談社)の発売を記念して、冒頭の一部をcakesにて特別公開します。2005年、アメリカの住宅バブルに不穏な空気を感じた“市場の守り神”と呼ばれるサミュエル・ストラスバーグは、投資銀行マンのジャッキーに調査を頼みます。ジャッキーが手に入れた「ある情報」とは?
『グリード』の熱い書評(by永江朗氏by関口苑生氏)も、ぜひご一読ください。

二〇〇五年秋 カリフォルニア州 ナパ

 待ち焦がれていた〝白馬の騎士 ホワイトナイト 〟が現れたと小躍りした瞬間、けたたましい音がジャッキーの夢を引き裂いた。朦朧とした意識で、サイドテーブルにあるはずの携帯電話を探した。

「はい、フォックスです」
「起こしてしまったかな」

 寝起きをごまかせなかった。声の主が思いつかず、耳から電話を離し、ディスプレイを見た。全米屈指の投資家サミュエル・ストラスバーグの名が表示されているのに気づくなり、体を起こした。
「おはようございます、おじ様」

 人嫌い、なかでも投資銀行マンを毛嫌いしているストラスバーグに、おじ様などと馴れ馴れしく言える金融マンは、アメリカ広しといえどもジャッキーだけだった。優秀だからではない。彼女の祖父とストラスバーグが親友だったからだ。

「実家に戻っているそうじゃないか」
 伝えた記憶はない。だが、彼はキーウエストに居ながらにして、世界中のトップシークレットを手に入れる。投資銀行のしがないアソシエイトの居場所を知るぐらい、造作もあるまい。
「ようやく夏休みをいただいたんです」
「ゴードンもスーザンも元気かい」
「おかげさまで。父は、ますます気むずかしくなりましたが」
「西海岸の太陽もワインも、あれの性格を変えられんわけだな」

 投資銀行家だった祖父とそりが合わなかった父は、大学進学を機にカリフォルニアに移って以来、ずっと住み続けている。何度か、ストラスバーグが父子の仲介役を買って出てくれたが、折り合えぬまま祖父は昨年、帰らぬ人になった。

「それで、ご用件は何ですか」
 忙しいストラスバーグが、単なる世間話のために早朝から電話かけてくるはずがない。太平洋標準時で午前四時四九分、東部標準時のキーウエストでも、まだ八時前だ。
「個人で投資顧問をやっている男に、一〇本ほど預けていると以前に話したのを、覚えているかね」

 米国有数の大手投資銀行ゴールドバーグ・コールズGC の投資銀行部門に籍を置くジャッキーにとって、ストラスバーグは大口クライアントである。当然、どんな些細な情報でも、全て頭に叩き込んでいる。

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真山仁

真山仁さんの最新作『グリード』(講談社)が10月29日に発売となりました。バブル崩壊後の日本を舞台に、外資系バイアウト・ファンド(ハゲタカファンド)マネージャー鷲津政彦を中心に、不良債権処理や企業買収といった金融の世界を描...もっと読む

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