説明過剰の映画たち—『おおかみこどもの雨と雪』と『踊る大捜査線』のあいだで

ライターの大山くまおさんが、『おおかみこどもの雨と雪』と『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』を対比しつつ、昨今の映画作品の傾向などを論じます。あまりにも説明的なセリフの数々やテレビのテロップ多用をどう捉えればいいのか――ご一読ください。

余計な説明セリフがなくたって……

やや古い話題になるが、先だって細田守監督の劇場版アニメ『おおかみこどもの雨と雪』を観てきた。公開2カ月を過ぎ、すでに興収40億円を突破している大ヒット作だ。

僕自身の感想を述べさせてもらえば、本当に面白かった。花と雪と雨の親子の物語に心打たれ、泣いた。アニメーションで描かれた美しい自然の風景にも息をのんだ。過去作の『時をかける少女』『サマーウォーズ』もおもしろかったけど、細田監督はさらにそれらを超える作品をつくりあげたと言ってもいいと思う。

この映画でとてもよかったのは、余計な説明のためのセリフがないところだ。成長した雪がナレーションをしているが、母の花が雪に語ったことがら以上のことは語られない。その分、ちょっとした芝居やショットの積み重ねで、登場人物たちの揺れる感情、日常生活の細かなリアリティ、自然の雄大さなど、実にさまざまなことを表現していた。演出の力とそれを支える映像技術の結晶だ。映画館で劇場用アニメを観ているのだからあたりまえだけど、「ああ、映画を観ているなぁ」と実感することができた。

たとえば、花がおおかみおとこと出会ってからの日々。当初は積極果敢にアプローチをする花だが、その後は平凡な生活の描写が続く。バイト先で一瞬、うわの空になる花。ちょっとだけおしゃれしておおかみおとこと出会った授業に向かう花。ふたりで大学の図書館に忍び込み、ふたりで土手を歩く。美しい色をした空を背景に、歩くふたりを背後から捉えたショットがとても印象的だ。日々の積み重ねの中でお互いの距離が縮まっていき、思慕をゆっくりと募らせていく過程がよくわかる。このシークエンスにはセリフが一切ない。

脚本の奥寺佐渡子は、花に少しヒロイックなセリフを言わせようとするだけで「そうじゃない」と細田にたしなめられたと明かしている(※1)。細田は花を「普通の人として描きたい」と考えていた。普通の人は、日常生活の中でわかりやすくヒロイックなセリフを言ったりしない。もちろん、説明的なセリフも言ったりはしない。

『おおかみこども~』には、説明的どころか一切セリフがないにもかかわらず印象的なシーンがいくつもある。おおかみおとこが正体を明かし、ふたりがはじめて一夜をともにした次の朝。ゆっくりと起き上がった花の表情を、無言のまま映し出す。このとき、花は父親の葬式のときにさえ見せていた、モットーとしているはずの笑顔を忘れている。愛情と不安に包まれたような、なんともいえない表情を見せるのだ。このショットは、彼女がこのとき抱いていたとても複雑な感情を伝えている。

終盤、夜明けに目覚めた雨が、木立のざわめきから豪雨を予感する。花の寝顔が挿入された後、雨は家の中から外をじっと見つめる。これは雨が親元から離れ、おおかみとして山で生きていくことを決意するシーンだ。

ラスト近く、山に入っていく雨を見送った後、花は笑顔を見せるがその前に一瞬息を吐く。ここでも花の感情はセリフで説明されない。その吐息と笑顔にどのような意味を見出すか、それは観客にゆだねられている。僕は公開された後と、しばらく時間を置いてからの2回、映画館で観て、2回目のほうがより泣けた。最初に観たときにはわからなかった表情、シーン、ショットの意味が、体にしみるようによくわかったからだと思う。面白いと思った映画は2回以上観たほうがいい。

僕は先ほどこの作品を観ている間、「映画を観ているなぁ」と思ったと書いた。ただし、ここでいう“映画”とは、べつに実写映画のことではない。なぜなら、昨今では実写映画を観ていても「映画を観ているなぁ」と思わないことがままあるからだ。では、その差はいったいどこから生まれるのか? ひとつの要因として、余計な説明セリフの有無にあると僕は感じている。

すべてをセリフやテロップで伝えてる!?

直近で言うと、本広克行監督の『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』がそうだ。こちらは『おおかみこども~』とは対照的に、オープニングから登場人物がのべつまくなしに説明セリフをしゃべり続ける。まさに説明過剰な映画の1本である。

誘拐事件が発生し、被害者が射殺体で発見される。現場に急行する織田裕二扮する青島たち。そこで死体と対面した緒方刑事(甲本雅裕)はこう話す。「向こうで拉致されて、ここでズドンか……」。こんなこと、わざわざセリフで説明する必要はない。画面を観ていればだいたいのことはわかる。しかし、一事が万事この調子。登場人物たちは自分が置かれている状況を常に説明する。いや、状況だけではない。それぞれが抱えた感情までもがセリフで説明されるのだ。

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