酒を飲んでいたのは、人付き合いが苦手だったからなのかもしれない
中川淳一郎(以下、中川) 断酒するために生活スタイルを全て変えたそうですが、他にはどんな変化がありましたか?
小田嶋隆(以下、小田嶋) 付き合う人がけっこう変わっちゃいましたよ。たとえば、酒場だけで出会った知り合い。行きつけのお店で顔なじみになる人って何人かいるじゃないですか? そんなに親しい人たちというわけではないんだけど、飲み屋で会う気の合う人が何人かいたんですけど、酒場に通わなくなったらそういう人たちと縁が切れてしまったのは若干寂しいですね。
中川 あぁ、飲み友達みたいなものってありますよね。
小田嶋 そうなんです。ただね、いろいろ思い出してみると、彼らと何の話をしていたのか全く思い出せないんですよ。冷静に考えてみると、あれって単に「酒の力を借りて、あまり親しくない人と友達のような錯覚を覚える」ということを肴に飲んでいるだけですからね。
中川 そういうものですかねぇ。
小田嶋 酒をやめてわかるのは、「酒を飲めば仲良くなれる」みたいなものは幻想だったんだなってこと。単に一緒に飲んでいただけで、友情でもなんでもなかったんですよ。結局自分は、人付き合いが面倒くさくて、人に調子を合わせるのも苦手なんです。それを酒の力を借りないとできていなかったんだなってことがよくわかりました。
中川 やっぱり人間関係はだいぶ変わりましたか?
小田嶋 変わりましたねー。酒はバカな人とも飲めるけど、お茶はバカな人とは飲めないんですよ。30分も会話がもたないでしょう?
中川 そうですよね。酒に関してはあまり好きじゃない人とでも一緒に飲める。適当にガンガン飲んでいい気分になって、「お前はバカだなぁ」とか言っていればいいわけだし。でも、シラフだったらそれはムリかもなぁ。
小田嶋 そうそう。酒が入るとめんどうくさい人も、いけすかない人も大丈夫になる。むしろ、たいして話をしていなくても「この人いい人だな」とか「ちょっと好きかも」ぐらいに思っちゃったりしますよね。それって、実は非常に空疎な人間関係なんだけど、とても居心地が良かったりする。
中川 そう考えると、酒を飲んでいるときのほうが好きな人が多くて幸せだったかもしれない。
小田嶋 そうとも言えるかもしれない。とにかくつまらない人とは会わなくなりますからね。
中川 オレの場合、この18年間ぐらいで築いてきた人間関係って、全部酒のつながりだったんです。だから、それが全部失われてしまうのかと思うと、結構怖いものがあります。
小田嶋 僕の場合は、酒がからんだ仕事のつきあいはほとんどなかったので、禁酒したときは楽でしたよ。ただ、大学時代からときどき酒を飲んでいた人たちとは、もうほとんど会わなくなっちゃいました。彼らからしたら酒を飲まない僕は、以前とは別人なわけだからしかたない。仮に一緒に飲みに行っても、こちらはシラフだから、「お前、さっきから話が繰り返しになってるぞ、大丈夫か?」とか結構厳しいことを言っちゃったりしますからね。
中川 そうですよね。酒の席ではみんなたいした話はしてなかったりするんですよね。この前、オレが参加した飲み会では、一緒に飲んでた人たちが「TENGAエッグは部屋のインテリアになるから便利なんです」とか「自分のことを『優香に似てる』とか『綾瀬はるかに似てる』って言い張る女はだいたいブスだ」とかしゃべっていたわけです。それに自分はひたすら笑っているんですよ。後から考えてみると、その発言になんでそんなに笑ってたのか思い出せない。
小田嶋 酒の席の話って、シラフだと全然おもしろくないんです。つまりね、酒自体から離れることはそんなに辛くないんです。酒にまつわる世界から離れてしまうことが辛いんですよ。
もしも「やめる」と決めたのに断酒できなければ、心療内科へ行け!
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。