動員の現在 アノニマスと反原発デモ

ネット社会の動向に明るい塚越健司さんが、アノニマスや反原発デモについて「動員」の観点から論じました。抗議活動のかたちが、いかに変容してきているのかも見えてきます。

動員の現代的手段を考える

 東日本大震災を契機に生じた原発をめぐる大規模なデモが話題となっている。その政治的論点は別にして、注目すべきは、それまでデモに参加することのなかった人々が、TwitterをはじめとしたSNSから情報を得たことで積極的に参加するようになったことにある。ジャーナリストの津田大介はその著書『動員の革命』(中公新書ラクレ、2012年)の中で、SNSをはじめとした情報技術の発展が、人々を動員することを容易にしたとして、「動員技術」の革命が生じていると主張した。

動員の革命 - ソーシャルメディアは何を変えたのか (中公新書ラクレ)
動員の革命(中公新書ラクレ)

 一方で国際的抗議集団のアノニマスや、アメリカの外交公電をはじめとした、世界中の機密情報を公開することで一躍有名になったウィキリークスなど、サイバースペースを主軸とした集団の活動が活発化している。とりわけアノニマスは、その特徴的な仮面と情報の自由を守るという大義の名のもと、世界中の人々を動員することに成功している。ここでは限られた範囲ではあるが、動員の是非を論じるのではなく、動員戦略の現代的手段を検討し論じたい。

アノニマスとは何か

 優れた動員戦略を有する「アノニマス(Anonymous)」は、英語で匿名を意味する集団であり、アメリカで2003年に誕生した画像掲示板「4chan」にその起源がある。日本の巨大掲示板「2ちゃんねる」と同様、年齢も職業も様々な人々たちで構成された4chan内で、2006年頃から一部のユーザーが政治活動をはじめるようになった。彼らがアノニマスである。

 2008年にアメリカ発の新興宗教団体「サイエントロジー」へのデモを契機に知名度を獲得したアノニマスは、2010年にはウィキリークスへの寄付受付を停止したクレジット会社に対し、抗議の名目でDDoS攻撃というサイバー攻撃を実行した。DDoS攻撃は世界的に違法とされているが、アノニマスは合法・違法にかかわらず抗議を実行する。

 アノニマスはその他にも、2011年初頭にチュニジアやエジプトで生じたの一連の中東革命時に、検閲回避のツールやその方法を現地の人々に伝えたかと思えば、ソニーが訴えたハッカーへの処罰が厳しすぎるとして、ソニーの運営する「プレイステーションネットワーク」へDDoS攻撃を実行した。このように、彼らの活動は幅広い。

アノニマスと動員

 合法のものから違法のものまで様々な抗議を繰り返すアノニマスだが、彼らは組織として統一されているとは言い難い面もある。一言にアノニマスといっても内部には派閥があり、違法行為も辞さない一派や、合法手段に専念する一派も存在するからだ。彼らはIRCというチャットシステムを用いて抗議(彼らはオペレーションと呼ぶ)内容を議論するが、喧嘩も絶えず、仲違いするアノニマスも多い。

 では、いったい何がアノニマスをアノニマスたらしめるのか。それは、アノニマスの「大義」と「仮面」にある。アノニマスは、情報の自由を守る、という大義をその活動目的に掲げている。この抽象的な大義は、まさにその抽象性ゆえに、思想も宗教も国籍も異なる人々を一つの目的に集わせることを可能とする。誰もが賛同しやすい大義は、世界中にメンバーが存在するアノニマスならではの発想である。

 次にアノニマスはガイ・フォークスという、17世紀のイギリスにおいて体制に反対した実在の人物を模した仮面を被る。アノニマスはそもそも匿名の集合体であることからもわかるように、リーダー不在の集団である。しかし、匿名の彼らにとって、仮面はひとつのアイコンとして機能する。仮面を被ったメンバーは、自分がアノニマスとして振る舞うことに自覚的になる。そればかりか、仮面はアノニマスという集団のアイデンティティとなり、メディアへのアピールを可能にする。

 アノニマスのメンバーは、内部で争いや思想の違いはあれども、アノニマスという大義のもとに集まり、それを仮面に集約する。仮面はアノニマスの意志を代弁するキャラクターとしてのアイデンティティを確立しており、実在のリーダーやそのカリスマ性を担う存在だ。

 さらにアノニマスは、大義を掲げることで正義感を演出し、自分たちを正当なる抵抗者であることをアピールする。また、その特徴的な仮面を被ることで一種の「祭り」感を演出し、ネット上の人々を巧みに動員する。アノニマスに参加するのは簡単で、デモに仮面を被るだけでも、またアノニマスが配布する専用ツールを用いてDDoS攻撃を実行することでもいい。それだけで誰でもアノニマスになることが可能なのだ。

脱原発デモに見られる動員

 アノニマスの抗議の手法とその動員戦略を論じてきたが、大義や仮面といったこの戦略は、実のところ昨今の脱原発デモにも通じるところが多い。

 まず、メディアでも取り上げられたことで一躍有名となったものに、毎週金曜日の18時~20時まで行われている、首相官邸前での抗議デモがある(原稿執筆時点では活動を継続中)。これは前述のTwitterなどを媒介にすることで、普段ならデモに参加することのないような一般層を巻き込んだ大規模なデモとなっている。

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