あえて、どこにでもあるもので描く
——「机は自分にとって拷問器具」とのことでしたが(前回参照)、そもそも、ご自宅に机はあるのでしょうか。
会田誠(以下、会田) まあ、一応あります。平面さえつくれればいいので、何の変哲もない白い机ですけどね。これもニトリで買いました。
——アトリエと同じく、ニトリなんですね(笑)。
会田 その机を、僕用と息子用で、並べた部屋があります。家はごく普通の2DKの団地なので、子ども部屋がありません。息子はいつもこの部屋に入り浸っていますね。
自宅の机部屋。右はプログラミングに熱中する、息子の寅次郎くん
——机はニトリなのに、椅子は高機能な感じですね。
会田 ええ、椅子にはちょっとこだわりがあるので、人間工学に基づいて設計されたとかいう、高価なオフィスチェアを衝動買いしまして。もちろん座面はお尻が蒸れないように、メッシュ素材です(前編参照)。でも、いまその椅子がどうなってるかというと、毎日、息子がふんぞり返っているという。
——「お父さんの椅子」に対する遠慮は……?
会田 まったくないですね。うちにある一番いいノートパソコンも、息子が専有しています。そして、僕にはずっと前に買った旧式のマックが割り当てられている。なんなんでしょうね。モニターも、今どき見ないようなブラウン管で、あきらかにポンコツなんですよ。
——いまは、パソコンを使って作品をつくることもあるのでしょうか。
会田 まあ、あるにはありますが、「拡大」とか「このレイヤーを前にする」とか、単純な使い方しか知りません。難しいことはもうぜんぶ人にお願いしちゃう。そもそも、まともにキーボードが打てないですから。
——でも、小説やエッセイを書かれていますよね?
会田 一応パソコンで書いていますが、ぼく、タイピングがあんまり得意じゃなくて、左手は2つのキーしか押してないんですよ。「A」と「S」かな? 一応キーボードの上に両手を置いて、それらしくしてますけどね。
個展に向け、連日、アトリエ近所の宿舎に泊まりこんでいる会田さん。手や膝、Tシャツに絵の具が
——それらしく(笑)。では、やっぱり絵を描く者としてこだわりがあるのは、アナログな文具の方ですか。
会田 スケッチをするときに使うのは、HBの鉛筆ですね。
——え、HBですか? 芸術家は4Bとか2Bとかの濃い鉛筆を使うイメージがあるのですが……。
会田 いや、HBだけです。Bもちょっとね……アートっぽい香りがしちゃってイヤ。
——アートっぽいんですか(笑)。
会田 なんか、特別なのはイヤなんですよ。ビジネスパーソンも使う、ごく平凡なHBをあえて使いたい。消しゴムも、MONOがいい。
——も、MONOとはまた普通ですね。芸術家は4Bで書いたクロッキーをパンで消すみたいなイメージがありました。なんか、コンビニでも売っていそうな文具ばかりなんですね。
会田 そう、むしろそれがいいんです。あと、筆ペンで描くこともあります。
——下描きではなく、本番に筆ペンですか?
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