消えてしまう私の仕事

今回で嘉島さんの連載「匿名の街、東京」は最後の更新となります。4年間、読んでくださった皆さま、ありがとうございました。最終回は嘉島さんがcakesに連載を持つことになったきっかけを振り返るとともに、ライターとしてWeb媒体がクローズすることの意味について語ります。最後に大事なお知らせもありますのでご覧ください。

世の中には、きっとどんな人でも「開きたくないメール」というものがあるだろう。原稿を書かせてもらっている身としては、編集者からの「連載のことで相談がありまして」という連絡は、死刑宣告のような存在だ。

4月の半ば頃、cakesの担当編集者のNさんからそんなDMが来た。DMなので件名はないのだが、iPhoneの通知画面にすぐさま「連載」「相談」という2つの単語を確認した。

字面を見ただけで「連載×相談=打ち切り」という計算式が成り立ち、「うわー、私、扱いづらい書き手だったか〜」と本文を読むまえに、勝手に傷ついた。そして「あ、これもしなきゃ」「あれもしよ」と目の前の仕事をするフリをしているうちに日が暮れ、開封するだけで1営業日が終わった。

だが、Nさんとはちょうど別件でBBQをする予定があったため、その日までには「打ち合わせ」という名目の死刑執行日を決めなくてはいけなかった。みんなで楽しく飲み食いしている中、お通夜モードになるわけにはいかない。BBQの前日にZoomで打ち合わせをすると、Nさんは開口一番こう言った。

「8月末でcakesがクローズするんですよ」

多分、Nさんの発言が終る前に、私は絶叫していた。私はとにかく声が大きいので、NさんにはPC越しにかなりストレスを与えてしまったに違いない。しかし、Nさんはいつも通りの耳馴染みの良い低音ボイスで「びっくりさせてすみません」と言い、事態を飲み込めない私は「超ウケる〜」と返していた。どうしようもない状態に陥った時、脊髄反射的に「ウケる」と発してしまうのが私の悪癖のひとつだ。

「もしドラ」の人が作ったcakes

cakesは2012年9月にサービスを始めた配信サイトで、「月額500円で良質なコンテンツが読み放題」というサブスクのビジネスモデルで話題を集めた。2012年当時は、SpotifyもNetflixも日本にはまだ上陸しておらず、有料でWeb上の文章を読むこと自体が珍しかった。それを見越したのか、cakesは150円の「週額プラン」なるものがあり、「ペットボトル1本分で読み放題」という宣伝文句も話題になった。

cakesの運営会社の社長である加藤貞顕という人は「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」(2009)など、ヒット作を連発する敏腕編集者として名を馳せていた。このため「ペットボトル1本分」という文句を見た時「人の心を動かす術を知ってるんだなぁ〜」と思ったのを覚えている。ペットボトル1本なら、課金への心的ハードルが下がるからだ。

連載の配信自体も珍しかった。Web上の文章は、ほとんどが一期一会。基本的に読み手が記事と出会うのは、SNSで流れてきたものだったり、検索しているうちに出会ったりすることが多く、「この人の記事が読みたい」という気持ちで待ち構えていることは少ないだろう。

だからこそ、コラムやエッセイなどを「連載」し、それに課金するという消費行動を狙ったcakesは、Web上の表現体系に風穴を開けたような存在だった。

岡田育さん、武田砂鉄さん、林伸次さん、速水健朗さん、平野啓一郎さん、フェルディナント・ヤマグチさん……そして燃え殻さんの「ボクたちはみんな大人になれなかった」。私はこの連載が更新されるのを毎回楽しみにしていた。

特に文章を書く勉強や訓練をしてこなくとも発信者になれてしまう、“無料で読めるWebの文章”とは違い、“お金を取れる”一流の人たちのコンテンツは一線を画するように感じた。かといって紙ほど権威性を帯びることはなく、きちんと開かれている絶妙なバランスは、2010年代当時「今っぽかった」。

エッセイなんて需要があるのか

その後、2014年に同じ会社からnoteが誕生。アカウントを作れば誰でも文章や音楽、イラストなどを配信できるサービスとして話題になった。しかし同時にすでにたくさんの類似サービスがひとつのカルチャーを作っていたので「今からブログサービスを作ってもね」という雰囲気もあったように思う。ひとつ違うのは、サポートなど課金システムなどが充実していたこと。これによって、原稿料だけではない収入源ができたことも業界からは注目を集めた。

私はリリース直後にちゃっかりnoteアカウントを取得し、生活する中で芽生えた違和感や怒りをもとにエッセイを書き始めた。

noteの前にもブログを書いたことはあるものの、どうも続かなかった。自己陶酔っぽい気もしたし、自分よりももっと博識で熱量があり、文章力のある書き手がWebの世界には溢れていたからだ。

でも、noteはこれまでのブログサービスとは違う“ゆるい雰囲気”が流れており、それが「書く」敷居を下げていた。冷笑的なコミュニケーションでマウントをとるよりも「文章書いてえらい」「書いてくれてありがとう」という背中を押してくれるリアクションが多かった。だからこそ、noteではリアルな人間関係上では言ったことのない本音を文字にできたのだと思う。

仕事の合間にnoteを細々更新していると、ある日突然、メールが届いた。送り主は加藤貞顕。あの社長だ。

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この連載について

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匿名の街、東京

嘉島唯

若手ライターの急先鋒、嘉島唯さんによる待望のエッセイ連載。表参道、渋谷、お台場、秋葉原、銀座…。東京の街を舞台に、だれの胸の内にもある友人、知人、家族との思い出を鮮明に映し出します。 第2回cakseクリエイターコンテスト受賞者、嘉...もっと読む

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コメント

itoi_twit https://t.co/hHIgy9aU4j 16日前 replyretweetfavorite

nakatate > Web上のコンテンツは永遠ではない。むしろ触ることすらできない刹那的な存在という方がずっと近い。(中略)でもそれでいいのかもしれない。「今」をもっと大切にしたいと思えるようになったのだから。 21日前 replyretweetfavorite

datadisk_tokyo 何も考えなくても、不思議と、すっと頭に入ってくる文章でした。読みやすいとは別の感覚でした。またどこかで読めるのを楽しみにしています。ありがとうございました。 21日前 replyretweetfavorite

sadaaki 嘉島さんのcakes連載も最終回に。風景と人々とその「時間」が見えるような文章を、ありがとうございました! 21日前 replyretweetfavorite