20代、お金にまつわる愚痴
樋口一葉(小説家)
1872年-1896年。明治時代の小説家。本名、なつ(夏子)。半井桃水に師事し、文芸雑誌『都の花』『文学界』などに寄稿。『大つごもり』『たけくらべ』『にごりえ』『十三夜』などの傑作を残した。10年近く書き続けた日記の評判も高い。
金銭を侮蔑しふりまわされた小説家
小説家樋口一葉は、裕福な士族の生まれである。金銭的には恵まれた少女時代を生きてきた。ただし、樋口家は先祖代々の士族の家系ではない。父の則義が苦労して蓄財し、士族の株を得たにすぎない。
そんな恵まれた暮らしの中で生きてきたからこその反動だろうか、彼女は、金銭、蓄財を侮蔑し、士族として誇りを持って生きることを願ったという。
ところが、15歳の年に兄が病没。その翌々年には父が事業で失敗し、失意の中、命を落とした。これにより、樋口家は一挙に没落してしまう。
父が亡くなる時、一葉には、婿養子となることが決まっていた婚約者がいた。しかし、その男は、樋口家の没落を目にするや、一方的に婚約を破棄した。
婚約者にも捨てられた一葉は、母と妹を連れて借家に住み、洗濯や針仕事などをして糊口をしのいだ。かつては何不自由なく暮らしていたお嬢さまが、あれほど蔑んでいた金儲けを、生きていくためにせざるをえなくなったのである。