もっとロマンチックな言い方ができなかったものか。ただ、その時口から出た言葉はそれだった。
彼女は笑ってくれ、それから黙った。長い沈黙、彼女はなんと返事をしようか悩んでいるみたいだった。
フラれる! 彼女が次に何かをいおうとした時、そう察知した山田は被せて全然関係のない話を始めた。その後も会話が途切れないようにずっと喋り続けた。勢いでお酒もどんどん飲んで、結果フラフラになりダウンし、最後は彼女に介抱されタクシーに乗せられ帰らされるという大失態を犯した。
翌日、気がつくと玄関で寝ていた山田。自分の不甲斐なさに打ちひしがれながら、急いで彼女にお詫びの連絡を入れた。しかし彼女からの返信がくることはなかった。
たとえ想いが通じなくても、笑顔で「ありがとう」のはずが、なぜこんなことになってしまったのか、悔やんでも悔やみきれなかった。
ところがデートから1ヶ月、もう一生会えないだろうと絶望していた山田のもとに、突然千佳からメッセージが届く。
柳田と別れることにしました。もし山田さんにまだ気持ちがあれば、私を借りパクしてくれますか。
天にも昇る気持ちだった。想いが通じた。彼女は自分を選んでくれたのだ。しかし、同時に強い罪悪感が湧き上がる。自分は柳田を裏切ってしまったのではないか。やはりこんなやり方はフェアじゃなかったんじゃないか。ただ、もう後戻りはできなかった。山田は自分がやったことに責任を持ち、覚悟を決めなくてはならなかった。
今回の事でもし柳田から連絡があれば、きっちりと説明し、謝罪する部分は謝罪する。ただ、彼女をオンリーワンと思っていない柳田には彼女を渡せない、そうはっきり伝えるのだ。それが自分にできる全てだった。
ところが以後、柳田から観戦の誘い及びクレームの連絡は一切ない。結局、柳田にとって千佳はどうでもいい女だったのかもしれない。
このようにして、山田は柳田から千佳を借りパクした。交際はそろそろ1年になる。交際は順調で、来月にはふたりは結婚することになっている。
「千佳さんは柳田から何の連絡が来ないことに対してなんて言ってるんですか?」
おれはおもわず質問していた。