「悪いのはどっち?」が立ち上がる謎
アカデミー賞のステージで、コメディアンのクリス・ロックが、脱毛症のため髪を短くしているジェイダ・ピンケット・スミスに対し、「『G.I.ジョー』の続編を楽しみにしているよ」と述べたことを受け、夫のウィル・スミスがステージに向かっていき、クリス・ロックに強烈なビンタを食らわせた。振り返って自席に戻るウィル・スミスは、肩で風を切るように歩き、自席に戻ってからも、汚い言葉を重ねていた。
とても不思議なのは、「悪いのはどっち?」というお題がたちまち立ち上がったこと。「暴力はいけない」vs「でも、言葉の暴力もいけない」、さて、あなたはどちらですか、と向けられる。案の定、日本のワイドショー番組では、この「どっち?」が繰り返されていたが、どっちも悪い。そう言うと「悪いのはどっち?」ではなく、「では、どちらのほうが悪いと思うか?」という問いに移行させられるのだが、なぜ、どちらかにしたがるのだろう。
反省も自分で操縦できる特権性
もうひとつ、事後反応として繰り返されたのが、日本では「奥さんを守ろうとしたウィル・スミス」を擁護する声が多いが、アメリカでは「暴力をふるったウィル・スミス」に厳しい声が向けられている、という比較。アカデミー賞という世界中の人々が注目している舞台での暴力行為を、日米で比較し、日本では擁護する声も、という意見にまとめあげてしまうあたり、それこそ日本的である。