登場人物紹介
僕:数学が好きな高校生。
ユーリ:僕のいとこの中学生。 僕のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。
僕の部屋
ユーリ「ねー、お兄ちゃん!」
僕「『なんか、おもしろい話、ないのー?』」
ユーリ「あっ、何それ。人のセリフ取るなよー!」
僕「さっきからユーリがたいくつそうな顔してるから、そろそろそんなセリフが出てくるかなあって思ったんだよ」
ユーリ「そーゆー、人の行動を見透かすよーなのは嫌われるんだぞ」
僕「はいはい」
ユーリ「なんか、おもしろい話、ないのー?」
僕「結局、言うんかい」
ここは僕の部屋。
いつものようにユーリが遊びに来ている。
ユーリ「それで? お兄ちゃん、ユーリは退屈していますよ?」
僕「リュックを背負って迷子になってる小学生みたいなセリフだな」
ユーリ「ちょっと何言ってるかわかんない」
僕「そうだなあ……じゃあ、こんな問題はどうだろう」
問題1
与えられた三角形に等しい面積を持つ正方形を作図する方法を考えよ。
ユーリ「来た来た。ちゃーんと出てくるんだから……でも、これはカンタン過ぎ!」
僕「おっと、そんなに簡単か?」
ユーリ「こんなふうに線を引いて、切り取って移動すればいーでしょ?」
ユーリの解答1(?)
僕「え?」
ユーリ「だって、切り取って移動しただけだから、面積は等しくなるじゃん?」
僕「いやいや、確かに面積は等しいけど、いまユーリが変形したのは直角二等辺三角形だよね。 一つの角が直角になっていて、しかも二つの辺の長さが等しい三角形。 そういう特殊な三角形の場合は、いまの方法でもいいよ」
ユーリ「あ……」
僕「そりゃもちろんそうなんだけど、この問題1が求めているのはそれだけじゃない。 直角二等辺三角形に限らず、 どんな三角形が与えられても それと等しい面積を持つ正方形を作図してほしいということなんだから。 三角形といってもいろいろある」
ユーリ「あーそだね。ちょっと勘違いしただけじゃん。でも、直角二等辺三角形も三角形だし、この方法はまちがいじゃないよね」
僕「そうだね。直角二等辺三角形の場合にはこれで等しい面積の正方形ができる。じゃあ、続けて考えてみてよ」
ユーリ「へーい」
そしてユーリは深い思考モードに入っていった。 思考モードというよりも、試行モードだな。 机に用意してあるA4のコピー用紙を使って、いろんな図を描き始めた。
さまざまな三角形を、正方形に変形しようとしているようだ。
僕「……」
ユーリ「うー……」
僕「苦悩するユーリ」
ユーリ「茶化すなよー」
僕「ごめんごめん」
ユーリ「あのね、聞いて聞いて!」
僕「はいはい」
ユーリ「すごく惜しーところまで来たんだよ。長方形まではいくんだけどにゃあ!」
僕「どう考えたか、教えてよ」
ユーリ「直角二等辺三角形じゃなくて、ただの二等辺三角形のときを考えたの。縦に切って片方を移動する。そーすると、正方形じゃないけれど、長方形になる」
二等辺三角形を正方形にしたいけど、とりあえず長方形にする
僕「うん。《縦と横が等しい》という条件は付かなかったわけだね。 縦と横が等しい長方形になってくれれば正方形なんだけど」
ユーリ「そゆこと、そゆこと。で、長方形を正方形に直すのはあとで考えることにして、他の三角形も試してみよーと思った」
僕「とてもよくわかる。ユーリ、すごいなあ!」
ユーリ「え、そんなにすごい? まだできてないよ」
僕「そうじゃなくて、自分の考える道のりをぜんぶ説明できるところがすごい!」
ユーリ「へへー。もっとホメて」
僕「このくらいで」
ユーリ「ちぇっ。……でね、次は二等辺じゃない直角三角形を試したよ。今度はね、別の切り方をしたの」
直角三角形を正方形にしたいけど、とりあえず長方形にする
僕「横に切ったんだ」
ユーリ「うん。もうね、正方形にするのはあとでまとめて考えることにしたから、長方形にするのをめざしたんだよ」
僕「うんうん」
ユーリ「でね、あとは直角三角形でもないし、二等辺三角形でもない三角形でしょ?」
僕「そうだね。いよいよ一般の三角形だ」
ユーリ「それはね、聞いてよ聞いてよ」
僕「さっきからずっと聞いてるじゃないか」
ユーリ「縦に切ると二つの直角三角形ができるから、それを両方とも長方形にしちゃえばいい!」
一般の三角形を正方形にしたいけど、とりあえず長方形にする
僕「いいね! 僕はこんなふうにいったん平行四辺形にしてから考えたよ」
三角形を平行四辺形にしてから長方形にする
ユーリ「結局は同じじゃん」
僕「ところで、ユーリの方法は、まず縦に切って二つの直角三角形を作ったけど、 こういう三角形だったらどうする?」
長方形にできる?
ユーリ「ふっふっふ。ぬかりはありませんぜ、ダンナ」
僕「誰がダンナじゃ」
ユーリ「ちょっと回してやれば同じことでしょ?」
三角形を回してから長方形にする
僕「そうだね」
ユーリ「これで、どんな三角形でも長方形にできた!」
僕「これでぜんぶ長方形に帰着できたわけだね」
ユーリ「きちゃく?」
僕「どんな三角形から始めても、ぜんぶ長方形にたどりついたということ。三角形と同じ面積を持つ長方形を得る方法がわかった」
ユーリ「うん!」
僕「……」
ユーリ「……」
僕「最初にユーリは、直角二等辺三角形を切って移動して正方形を作った。それから二等辺三角形、直角三角形、一般の三角形を切って移動して長方形を作った。 でも、」
ユーリ「でも、目的は長方形じゃないんだよね?」
僕「そうだね。長方形じゃなくて正方形がほしい」
問題1(再掲)
与えられた三角形に等しい面積を持つ正方形を作図する方法を考えよ。
ユーリ「どんな三角形でも長方形にできるから、あとは、長方形を正方形に変えることができればいいってことだよね……」
僕「その通り。こんな問題2を解くことになる」
問題2
与えられた長方形に等しい面積を持つ正方形を作図する方法を考えよ。
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この連載について
数学ガールの秘密ノート
数学青春物語「数学ガール」の中高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わいましょう。本シリーズはすでに14巻以上も書籍化されている大人気連載です。 (毎週金曜日更新)