堀辰雄「デモンに憑かれろ! 憑かれろ!」

歴史に名を残す人物たちも、実は「愚痴」をこぼしながら生きていた! 渋沢栄一から夏目漱石、豊臣秀吉にナイチンゲールまで、人生の苦境で言わずにおれなかった愚痴150篇。女性への未練、お金の無心や仕事の焦り、家族への恨みなど現代人と変わらない不平不満です。読めばなぜか勇気がわいてくる、愚痴ノンフィクション! 10月21日発売の近刊『人間愚痴大全』より特別公開します。(提供元:小学館集英社プロダクション)

30代、人間関係にまつわる愚痴

堀辰雄(小説家)

1904年-1953年。東京生まれの小説家。室生犀星、芥川龍之介に師事し、中野重治らと同人雑誌『驢馬』を創刊。西洋の心理主義文学の手法をとり入れた世界観に定評がある。代表作に『聖家族』『美しい村』『風立ちぬ』『菜穂子』などがある。

恐ろしい言葉は友人への叱咤激励

小説家・堀辰雄の書簡形式の小文『手紙』に、こんな一節がある。

小林よ。デモンに憑かれろ! 憑かれろ!

「デモン」とはいわゆる悪魔のこと。

「小林」とは、中原中也、長谷川泰子との三角関係でも知られる文学者・小林秀雄のこと。堀と小林は第一高等学校の同期生で、学生時代から交流があった。

親しい友人に対し「悪魔にとりつかれてしまえ!」などというとは、いったい何があったのだろう。

この小文の中で堀は、主に小林が書いた小説『オフェリヤ遺文』についての感想などを述べている。『オフェリヤ遺文』とは、ハムレットの恋人で精神を病んで水死する女性オフェリヤが、ハムレットに対して綴った遺書の形式で書かれた小説である。

これを読んだ堀は、この『オフェリヤ遺文』を書いた時の小林は、『エグモント』という本を書いた時のゲーテに似ていると語る。ゲーテはデモンにとりつかれて恋に落ちたが、その恋が自滅に結びつくと知り、それを振り落とすために『エグモント』を書き、自身を救った。同様に小林もデモンにとりつかれ、それを振り落とすために『オフェリヤ遺文』を書いたのではないか、というのだ。

この続きは有料会員の方のみ
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン
なぜか、勇気が出てくる。不平不満の150篇。

人間愚痴大全

福田 智弘
小学館集英社プロダクション
2021-10-21

この連載について

初回を読む
なぜか勇気が出てくる 人間愚痴大全

福田智弘

「今日も飯はうまくない」「アルコールでごまかすより外なかった」 天才と呼ばれる作家に芸術家、世界を変えた政治家に勇猛な武将まで、歴史に名を残す人物たちも、実は「愚痴」をこぼしながら生きていた! 渋沢栄一から夏目漱石、豊臣秀吉に...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

Tweetがありません