借りパク奇譚

おれが借りパクしてしまったもの #4

【前回までのあらすじ】友人の山田に強引に連れられ、「借りパク懺悔の門」なる儀式に参加することになった竹中。先客の男女2人とともに4人で儀式の始まりを待っていると、亮潤という名の眼光の鋭い住職から儀式用の名前を与えられる。山田はカンバルジャン、先客の女はクロエ、先客の男はボンネ。しかし竹中だけはなぜか「たけし」という和名に。戸惑いながらも受け入れるがーー。前回のお話はこちらからどうぞ。

「カンバルジャン、クロエ、ボンネ、そして"たけし"。皆様、よう受け入れて下さいました。以上をもって『名与の儀』完了とします。またこれによって門をくぐる準備が整いました」

そう言い終わるやいなや、亮潤がニカっと笑顔をのぞかせる。

おれを含め参加者は皆、唖然とする。あれだけ鋭かった眼光が、今や一気にマイルドになり、別人ですか? と問いたくなるレベルになる。もしや!? 与えた名前に有無をいわせないために、わざとあれだけ怖い顔をしたのではあるまいか? いやいや、聖職者が脅しなど、さすがにあってはならないだろう。

それにしても、さっきからやたら出てくる「門をくぐる」という表現。『懺悔の門』とは、どうやら最終的にその門をくぐる儀式のようだ。もちろんそれは、抽象的な意味での門であろうが。

「では、これより、門を目指して歩いていく儀式、『回顧の儀』を始めます。 ポチ!」

亮潤の呼びかけに、火の世話をしていた先ほどの案内役の坊主が「はい」と元気に返事をし、テキパキと紙とペンを配り始める。

おいおい犬じゃないのだから、と思いつつ、おれはポチから紙とペンを受け取った。

紙はリスト表になっていて、そのヘッダー部分に、【借りたもの】【借りた人】【価値】【返せなかった理由】(※簡素に)と書かれていた。なるほど、つまり、ここに、自分が借りパクしてしまったものを記入し、借りパクリストを作成しろということなのだろう。

皆に紙が行き渡るのを待って、再び亮潤が口を開く。

「今お配りした紙をご覧ください。これより皆様には、そこに自分が借りパクしてしまったものを記述していただきます。思い出せる限りで構いません、これよりしばらく時間をとりますので、各自、表を埋めてみてください。記入が終わりましたら、ペンを置き、心を静めてお待ちください」

さらりと”借りパク”という表現を使う亮潤、やはりファンキーだなんて思っていたところ、

「すみません……書ききれない場合はどうしたらいいでしょうか?」

と『フザケルジャン』。

なんだと! この紙1枚で、30品目まで書き込むことが可能である。しかし貴様はそれでは足りないと? 山田よ、一体お前は今までどれだけ借りパクしてきたというのだ?

一方、そんな愚か者には慣れているのか、ポチがすかさず『カリスギジャン』のところへやってきて、紙を追加で3枚渡す。3枚はさすがに多いだろと思いつつ、いざ我々は借りパクリスト作成へと移っていた。

さて、おれが今まで借りパクしたものとは何だろう? あらためて考えてみると、なかなか思いつかない。借りパクされたことは何度となくある。ただ、自分が借りパクした記憶というと、ほとんど思い浮かばないのだ。

それでも唸ること5分、ようやく一つの記憶がよみがえる。

文庫本……そう、小説の文庫本だ! おれは大学時代、先輩から借りた一冊の本のことを思い出した。

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この連載について

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借りパク奇譚

宮藤宙太郎

この世にはびこる「借りパク」。それを懺悔し、みそぎができる寺があったら…? 今まで散々借りパクしてきたという悪友に巻き込まれる形で、みそぎに参加することになった主人公・竹中。そこに新たな2人の男女も加わり、奇妙な形で儀式が進んでいく。...もっと読む

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10ricedar 「トオルさん」て8回出てきた 「トオル」だけだと9回 《 約2ヶ月前 replyretweetfavorite