60代、仕事にまつわる愚痴
江戸川乱歩(小説家)
1894年-1965年。三重県の生まれ。本名、平井太郎。筆名は「エドガー・アラン・ポー」をもじったもの。『蜘蛛男』『黒蜥蜴』『怪人二十面相』など約130の作品を発表。本人の寄付を基金として「江戸川乱歩賞」も創設されている。
飽き性だった作家の苦労
日本の推理小説、探偵小説の先駆けともいわれる江戸川乱歩。その彼が自分のことを
「なんでも初めよし後悪し、竜頭蛇尾の性格」
だったと愚痴を漏らしている。この一文には続きがあり
「昔やった職業でも、入社匇々は大いに好評を博するのだが、慣れるにしたがって、駄目になってしまう。飽き性というのであろう」
とした後で
「小説でも同じことで、大した苦労もせず、処女作が好評を博し」たものの「すぐに行きつまり」、その後、「大部数発行の娯楽雑誌に書いてみると、これがまた大当り、しかしそれも結局は竜頭蛇尾」だった、と述べているのだ。
この乱歩の述懐は、自嘲気味でも、オーバーでもなく、かなり的を射た表現だといえる。