そもそもなぜ、しょう油差しが生まれたのか
「樋口さん、オススメのしょう油差しってありますか?」「cakesの連載でしょう油差しを扱ってください」とよく言われます。しずくが垂れる、口が詰まる、など小さな不満の多い製品なのかも知れません。
というわけで今回のテーマは『しょう油差し』ですが、本稿で僕が言いたいのは「そもそも必要ですか?」というもの。イチバンの商品を紹介するという連載の論旨から多少ずれますが、まずはなぜしょう油差しという道具が生まれたのか、説明させてください。
時代を遡るとしょう油はもともと1升瓶で販売されていました。それ以前は徳利や壺、龜などをしょう油蔵まで持って買いに行く必要があったようです。その時代、しょう油は高級品で入手できる人も限られていたのでしょう。
瓶から少量のしょう油を使うのは大変です。そこで家庭で小さな容器に移し替える必要があります。その必要性から生まれたのがしょう油差しという道具です。
1958年に発売された「G型しょう油さし」は現代でも残る名品。口の形に特徴があって、しずくが垂れにくいデザインになっています。デザイナーは森正洋氏。その後の1961年にはキッコーマンから「卓上しょう油」が発売されます。
榮久庵憲司氏によるデザインは美しく普遍的で、現代でも残る名品です。こちらはガラス製で「残りがわかりやすい」という特徴があり、詰め替える手間も不要。当時としては非常に画期的な商品でした。
優れたしょうゆ差しに求められる条件
今では様々なしょう油差しが売られていますが、どれも形を考え抜き「液垂れのしにくさ」と「詰め替えしやすさ」など様々な工夫が施されています。
では、どんなしょうゆ差しが優れているか? それを考えるにはしょう油の性質を踏まえる必要があります。しょう油の敵は「光」「温度」「酸素」ですから、光を通すガラス製やプラスチック製は避けるのが無難です。温度と酸素については小さなサイズを選ぶのが無難でしょう。
しょう油の味は鮮度で決まります。こだわっている日本料理店ではしょう油は小瓶で購入し、封を開けたらその日に使い、翌日はまかない用に回すほどです。大きなしょうゆ差しに移し替えて、卓上に放置するなどわざわざ劣化させているようなもの。
イチバンに選ばれたのは、しょうゆ差しではなかった
こうして考えると時代が変わった今、しょうゆ差しを使うのはまったく合理的ではありません。僕がおすすめするのはやはりこういった製品です。