母から譲り受けたものの、当時の私には着こなせなかったコートをお直ししてください

ファッションブランドspoken words projectのデザイナー飛田正浩さんによるリメイクプロジェクト「sauce」。今回は、数年前に「sauce」に応募してコートのリメイクを依頼した女性が、当時のことを思い出して、そのコートにまつわる思い出や応募したきっかけを綴ってくださいました。飛田さんは、リメイクにこめた想いやデザインのポイントを依頼者へのお手紙形式で綴っていきます。

あなたのクローゼットで眠っている、着なくなってしまった服を、その服の思い出を添えてお送りください。アトリエのセンスとスキルで思い出と一緒にリメイクをいたします。詳細や応募先は記事末をご覧ください。

数年前に飛田様にリメイクをお願いしたのは、私が大学生になるときに母が譲ってくれたコートです。


20年以上前に、母が職場に着ていっていたものとのこと。ニュートラルだけど独特で品のあるシルエットが素敵なのですが、もらった当時はなかなかうまく着こなせず、コートにいつか似合う時が来たらいいなと思いながらも数年間タンスの肥やしになっていました。

社会人になってから、母の凄さを一層強く感じるようになりました。母は私が幼いころから働きながら家事をこなし、自分が大変な時やつらい時も家族を見捨てずに支え続けてくれた存在です。心配や小言を口にしながらも、最終的には私のやりたいことを応援してくれる母の愛、仕事と家事で忙しい中、私を守り育て上げてくれた強さに、とても敵わないなあと思います。そんな母のコートが学生時代の私に似合わなかったのは、今となっては当然のことのように感じます。

おしゃれ好きな母は、若いころに自分のお給料を貯めて買ったお気に入りの服を大切に保管していました。そして私が大きくなってから少しずつ、「娘がいると、こういう時に楽しいよね。」と笑って、その服たちを譲ってくれるようになりました。このコートも、そのうちのひとつです。

20年以上も前のコートなので、当然汚れや破損はありました。襟元にはシミのような色落ちのようなものがあり、クリーニングやお直しのお店に見てもらいましたが、これ以上消すことはできないと言われあきらめていました。また、劣化によってベルトのバックルやボタンの一部が欠けてしまっていました。

私は古着も好きなので、多少の汚れや破損はその服の辿ってきた歴史が垣間見えるようで愛着を感じる節もあるのですが、このコートはぜひ仕事にも着ていきたいという思いもあったので、飛田様には「汚れ・破損を消しつつ、シルエットの印象、すその丈はできるだけ残しながら再デザインしていただきたい」とのリクエストをしました。

「sauce」に応募したのは、私が建築設計の仕事を始めて1年目の春のこと。応募を決めた一番のきっかけは、「sauce」の理念が私の大切にしている建築の考え方と通じる所があると感じたからです。

学生時代、イタリア・ヴェネツィアの巨匠である、カルロ・スカルパという建築家について研究していました。彼は生涯手がけたプロジェクトのうち8割が【restauro】(イタリア語でリノベーション=改修といった意)という変わった建築家なのですが、私が素敵だな、と思う彼の設計思想のひとつに、【所与】という考えがあります。

どんな建築にも【所与】—その土地の地形、気候、街並み、暮らし、風景、文脈—つまり“すでに与えられたもの”“オリジナルなもの”があるということです。新築であっても改修であっても、建築を作るということは、【所与】となにかしら新しい関わりを持つことでもあります。

私は設計をするうえで、その建築の【所与】と、これから付加する新しい要素—機能、建築主の想いなど—、そのどちらをも尊重し、そのどちらもが絡みあってこそ立ち現われてくるその建築のあるべき(と私が思う)姿、美学を大切にしたいと考えています。

「sauce」というプロジェクトは、服がすでに持っている歴史や雰囲気、状態、持ち主の背景などを【sauce】とし、そこから創作が始まるということにおいて、先ほどの考えに通ずるところがあると感じ、かねてより興味を持っていました。そして建築設計の仕事が始まるという時期に「sauce」の公募があり、なにか運命めいたものを感じて応募するに至りました。

(ミチル 女性 30代)

ミチルさま

spoken words projectが作った服を、何年も大切に着続けてくれているお客様からその服を見せていただく機会があります。

もうそれは僕らが作った服とは言えず、ホントそのお客様自身そのものです。お客様が作ったとは言わないまでも着る人の精神性や物語が服に宿っていて、その服はそのお客様が一番似合う服になっています。

僕らには絶対にできないデザインの付加です。
想像するに建築もそうだろうなぁ。

ミチルさんのおっしゃる「所与」、つまり、「どんなものにも “すでに与えられたもの”“オリジナルなもの”がある」とはつまり「ファンタジー」です。

地形や気候や暮らしを、服の布や糸やボタンなどの素材と考えるよりも、地形や気候や暮らしから、そこにかつて暮らしていた人々の感情やムードや思い出や物語を思い浮かべる。それはファンタジーと考えます。

僕は月を見てその素材を考えません。
月を見て母や寂しさや郷愁を考えます。

この「sauce」もまさしく人々の感情及びそこから紡がれていく物語が素材なのです。

捨てられないには訳がある。
その「訳」は美しい所与です。

ミチルさんがお母様からもらったこのコートもファンタジーが詰まっています。

ここで具体的に今回の「sauce」の作業を解説いたします。

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sauce by spoken words project

飛田正浩

ファッションブランドspoken words projectのデザイナー飛田正浩さんによるリメイクプロジェクトです。読者の方からの依頼を受けて、「その服にまつわる思い出」とともに服をリメイク。そのリメイクにこめた想いやデザインのポイン...もっと読む

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コメント

Emiko3588 素敵なプロジェクト✨ https://t.co/C7KpG5JlgK 3ヶ月前 replyretweetfavorite

funny_caolix cakesでこんな新連載が! いいお話だ 3ヶ月前 replyretweetfavorite

die_kuma すばらしい……! 3ヶ月前 replyretweetfavorite

kamitonami ↓すてきなお仕事 3ヶ月前 replyretweetfavorite