第349回 熱力学第二法則(前編)ケルビンの原理

「熱力学を、熱力学たらしめている《鍵》」を語り始めるミルカさん。どんな話になるのかな?……「数学ガールの秘密ノート」で熱力学の基本をいっしょに学ぼう!

「証明、さっぱりわかりません..oO」

数学が苦手な「ノナちゃん」が図形の証明に挑戦します!

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登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

テトラちゃんの後輩。 好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。言葉が大好き。

ミルカさん:数学が好きな高校生。 のクラスメート。長い黒髪の《饒舌才媛》。

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熱力学の《鍵》

テトラちゃんミルカさんは、図書室で熱力学の話をしている。

僕たちは熱力学第一法則エネルギー保存則についておしゃべりを続けていた(第348回参照)。

「ニュートン力学の《仕事》や《エネルギー》が熱力学にも出てきて、エネルギー保存則も出てくると、確かに熱力学も物理学なんだなと感じるね」

ミルカ「では、ニュートン力学と熱力学の最大の違いは何か」

「違い?」

ミルカ熱力学を、熱力学たらしめている《鍵》は何かといってもいい」

テトラ「《鍵》……?」

「難しい問いだね」

テトラ「熱力学では《熱》が出てきますよね。でも、ニュートン力学に《熱》は出てこない……ということではだめでしょうか?」

「そういうことじゃないと思うけど」

ミルカ「そういうことだ。熱力学には《熱》が出てくる。それは確かに熱力学の最大の特徴の一つ。しかし『《熱》が出てくる』だけではつまらない。テトラ、《熱》とは何?」

テトラ「《熱》とは先ほどからお話に出てきているものですよね。エネルギー……です」

「エネルギーはエネルギーだけど、《熱》は《仕事》と同じように、系が持つエネルギーを変化させるものだよね、テトラちゃん」

テトラ「そうでした。《熱》や《仕事》は状態で決まるものではありません。過程で決まるものでした(第347回参照)」

「《熱》と《仕事》が同じような位置付けになるということは、熱力学第一法則$\Delta U = Q + W$でも表せているね。《熱》と《仕事》は足し合わせることができるんだから」

ミルカ「《熱》と《仕事》が同じ物理学的な次元を持っていることがわかる」

「うん、エネルギーと同じ次元」

ミルカ「そこで、次の問いが浮かぶ。《熱》と《仕事》では何が違うのか

「それが、熱力学の《鍵》になるの?」

ミルカ「そう考えてもいい。ニュートン力学では《仕事》を使ってエネルギーの変化を考える。熱力学では《仕事》だけではなく《熱》も使ってエネルギーの変化を考える。 《仕事》だけでは表せない何かがあるわけだ。《仕事》とは異なるものとしての《熱》を理解するためには、《熱》と《仕事》は何が違うのかを明確に理解する必要がある」

テトラ「《熱》と《仕事》の違い……」

「……思い出した。ミルカさんが言いたいのは熱力学第二法則のこと?」

テトラ「熱力学第二法則」

ミルカ「名前が先に出てしまったか。君のいう熱力学第二法則とは何か」

「正確には覚えていないんだけど、《熱》と《仕事》がどう違うかを明確に表したもので、こういうことじゃなかったっけ?」

《熱》と《仕事》の違い(?)

  • 《仕事》を《熱》に変えることはできる。
  • 《熱》を《仕事》に変えることはできない。

ミルカ「ふうん……方向性は合っているが、不正確だな」

「うん、だから、正確には覚えてないんだって」

ミルカ「《仕事》を《熱》に変えることができるのはいい。しかし、《熱》を《仕事》に変えることはできないと言ってしまうのはさすがにまずい」

「でも、そういうことじゃなかったっけ?」

ミルカ「それでは火力発電所が全否定されてしまう。蒸気機関がありえない機械になってしまう。バーナーで空気を温めて上昇する熱気球はどうなる」

「そうか。火力発電所も蒸気機関も熱気球も、《熱》を《仕事》に変えているか……」

テトラ「……」

ミルカ「《熱》と《仕事》の違いについて、ざっくりと表現するにしても、せめてこのようにしたい」

《熱》と《仕事》の違い

  • 《仕事》のすべてを《熱》に変え続けることはできる。
  • 《熱》のすべてを《仕事》に変え続けることはできない。

「うん、そうだね。確かにそうだ」

テトラ「お、お話中すみません。《仕事》を《熱》に変えたり、《熱》を《仕事》に変えたりというお話なのはわかりましたが、そもそも、その熱力学第二法則はどういうものでしょうか。 ニュートン力学と熱力学の違い……熱力学を熱力学たらしめているもの、なんですよね?  お話をどのように頭に収めていけばいいのか、まだ分かっていないんです」

テトラちゃんはそういって、両手を頭に乗せた。

ミルカ「では改めて、可逆過程から話していこう」

可逆過程

ミルカ「このような、可動壁を使った系で一つの過程を考える。可動壁にバネがついている。最初の状態1から、可動壁を押してバネを縮める。これを状態2とする」

可動壁を押してバネを縮める過程

テトラ「ぎゅうっと押す」

ミルカ「そして、この過程とは逆に、状態2から状態1へ戻す過程も存在する。すなわち、この二つの状態は行き来できることになる。 このような過程を一般に、可逆過程という。可逆性を持つ過程ともいう」

この過程には、もとの状態に戻す過程が存在する

テトラ「可逆性……もとの状態に戻すことが可能ということですね」

「なるほど。《仕事》を考えるのに可動壁を考えるのは自然だね。《力》を掛けて可動壁の《位置》を変化させると、その《力》はバネに対して《仕事》を行ったことになる。 バネに対して行った《仕事》は、バネが持つ力学的エネルギーの増加となる。バネの弾性力に関する位置エネルギーの増加ということだけど」

テトラ「はい」

「そして逆の過程では、バネが持つ力学的エネルギーは《仕事》として取り出せることになる」

ミルカ「そういう話につながる」

「《仕事》と《熱》を対比して考えるとき、可動壁と透熱壁を対比して考えればすっきりするね!  可動壁は力学的なエネルギー移動である《仕事》に関連していて、 透熱壁は熱力学的なエネルギー移動である《熱》に関連しているから、当然か……」

テトラ「えっえっ?」

ミルカ「いまの彼の発言が、次の話題になる。不可逆過程だ」

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力学的エネルギー保存則を学ぼう! 物理学はまずはニュートン力学から。

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この連載について

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数学ガールの秘密ノート

結城浩

数学青春物語「数学ガール」の中高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わいましょう。本シリーズはすでに14巻以上も書籍化されている大人気連載です。 (毎週金曜日更新)

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コメント

aramisakihime 熱力学第二法則は、最初の「僕」以上にうっすらとした理解でした。「ケルビンの原理」以外についても、検索してみました。 4ヶ月前 replyretweetfavorite

asangi_a4ac ところで熱はミクロの視点で見ると各分子に与える仕事です。そこで、分子レベルで仕事を取り出して(これは力学的操作なので熱のやり取りはない)、取り出した分を熱として後から補充してあげたら何が起こるでしょうか。 https://t.co/yLaK9Touzj 4ヶ月前 replyretweetfavorite

tokei1974kuro 「仕事」は「力学的に与えたり受け取ったりしたエネルギー」で説明してたけど、「熱」って… https://t.co/0ubdyli1bG 4ヶ月前 replyretweetfavorite

Lsdu2DalePerry 『熱力学』って高校で学んだっけな?記憶が曖昧・・・。でもそのせいでかえって新鮮な気分で読めるな。 4ヶ月前 replyretweetfavorite