ソーシャルメディアで「オミクロンはただの風邪」という日本人の発言をよくみかけるようになった。現在世界中で猛威をふるっている新型コロナウイルスの変異種であるオミクロン株の感染力は非常に強いが重症化になる人は少ないという海外の情報から、「風邪程度ですぐ治るならマスクの必要はない」という意見、ひいては「風邪程度ならかかって、それで免疫をつければいい。ワクチン接種は必要ない」という意見までみかける。
そこで、オミクロンが驚異的な勢いで広まっているアメリカのボストン界隈での状況をお伝えしようと思う。
マサチューセッツ州で最初のオミクロン感染例が初めて確認されたのが12月初頭で、その2週間後にはボストンで感染が広まり、オミクロンはアメリカで最も感染者が多い変異株になった。これまでの変異種との違いは、信じられないほど感染力が強いことと、潜伏期間が短いことだ。
マサチューセッツ州での新型コロナ感染数の変移。テストを受けた者だけの数字(WCVBのサイトから)
広まったタイミングの原因は、アメリカで家族が集まる大規模なホリデーと見ていいだろう。11月末の「感謝祭」と12月の「クリスマス」だ。
多くの家族は、集まりの出席者に「ワクチン接種」+「テストでの陰性」をもとめていた。でも、後になって、ワクチン接種をしている人でも感染する「ブレイクスルー」が多いのと、ホームテストで陽性にならない「偽陰性」が多いのもオミクロンの特徴らしいことがわかってきた。
これまでかなり注意して生活してきた人がどんどん感染するようになってきたのだ。
わが家にもとうとうCovidが来た
わが家の周囲にオミクロンが忍び寄ってきたのは12月半ばのことだった。その数日前にわが家を訪問していた義弟夫婦から、(わが家には来ていなかった)息子が陽性になったという連絡を受けた。20歳の大学生の彼は一緒にいた友人に症状が出て検査したら陽性になっただけで、本人はその時点では無症状だった。家族全員がワクチンは接種している。
その数日後に今度は別の義弟が感染したという連絡があった。彼はジョンソン・アンド・ジョンソン(J & J)とファイザーワクチンの組み合わせで、症状はインフルエンザのようだということで、この時点では高熱と咳で寝込んでいた。
私たち夫婦はこの時点では元気で、念の為にチェックしたホームテストでも陰性だった。
大晦日に娘婿の両親の家に招かれ4人でランチをしたときも、行く前にちゃんとホームテストで陰性を確認してからでかけた(いつのまにか、よく会っている家族でも、一緒に食事する前にはテストで陰性を確認するのがマナーになっていた)。
その翌日の元旦もふつうに元気にしていたのだが、夜になって夫が「寒気がする」と言い出した。その時点では熱はなかったが、夜中に彼の背中に触れたら熱を計らなくても高熱が出ているのがわかった。
「ああ、わが家にもとうとうCovidが来た」と思った。
寝ている病人を移動させるのは気の毒なので、「たぶんCovid-19だから、私は別の部屋に移動して寝る」と伝えて移動した。
翌日は、夫が発症する前日に会っていた娘婿の両親にメールして状況を伝え、夫が目を覚ましたところで別棟のベッドルームに移し、その日からわが家の家庭内隔離が始まった。
夫の熱が39℃から40℃の間を行き来する状態は48時間ほど続き、その間は身動きするのもやっとで何も考えることすらできなかったようだ。咳もしていたが、パルスオキシメーターで測った血中酸素飽和度は97%以上を保っていて息が苦しくなることはなかった。3日目になって熱が下がり始めたが、強い倦怠感は続き、通常の生活に戻るまでに10日間かかった。
興味深いのは、40℃の高熱と咳があった時でもホームテストでは「陰性」だったことだ。マサチューセッツで感染者が増えすぎていてPCRテストの予約を取ることが不可能だったので、ホームテストに頼るしかなかった。夫のホームテストが「陽性」になったのは、熱が通常に近くなった4日目のことだった。
ホリデーと感染者増加で、ホームテストキット(抗原検査キット)を入手するのも困難になっていた
早期に隔離したとはいえ、セントラルヒーティングだから空気は家中を流れているし、感染力が強い初期に一緒にいたから私も感染しそうなものだ。なにしろ、感染力が強いオミクロンだから。私も翌日から軽い症状があったのだが、6回のホームテストで一度も「陽性」にならなかった。
私にとって辛かった症状は「倦怠感」だ。
「あなたマイケル・ジャクソンですか?(滞在したホテルなどでの注文が細かかったといわれる)」と皮肉を言いたくなるほど注文が多い困った病人の世話をしていたせいもあるだろう。
最初のうちは、高熱で水も飲みたくないようだったのであれこれと世話をして甘やかしたのがいけなかったのか、回復するにつれ要求が増していった。
こちらは締め切りが迫った仕事があるので、「思いついたらテキストメッセージしておいて。仕事が一段落ついた時にまとめてやるから」と言っているのに、思いついた時にいちいち呼びつけて要求を詳しく説明する。「乾燥したイチジクを9つだけ細かくカットして、アプリコットジャムと一緒にヨーグルトに乗せて。今日はアップルサイダーではなくて、手作りレモネードにして。砂糖ではなくて蜂蜜で…」と細かい説明をうけているうちに詳細を忘れて、「あれが抜けている」と言われて2階と1階を行き来することになる。
そういうことも重なってか、2階にいる夫とマスク越しに会話している途中にいきなり発話ができなくなるほど疲れて、そのまま横になって寝てしまったこともある。
頭が朦朧として体が重くなり、突然横になって眠ってしまう、という特有の倦怠感は10日ほど続いた。それが看病疲れだったのか、感染だったのかいまだに不明である。ワインを半グラスだけ余計に飲んだ翌朝のような頭痛と思い出したように出る軽い咳は、23日後の今も続いている。
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