情熱大陸的な所作とは
『情熱大陸』の被写体が、悩んだり集中したり内緒話をするなどの理由で「ちょっと、ごめんなさい、ここからはもう、カメラいいですか(=止めてもらえますか)」と申し出る確率は自分調べで20%ほどなのだが、その数値の高さは、毎回欠かさず観ているわけではなく、そういった緊張関係が生まれそうな被写体を選んで観ているからなのだろうか。
ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』の中で『情熱大陸』のパロディが盛り込まれたように、情熱大陸的な所作というのは、大衆におおよそ共有されている。お笑い芸人やミュージシャンが取り上げられた場合、その周囲にいる同業者たちが、『情熱大陸』の密着を受けていると知ると、「ええっ、マジで情熱大陸!?」と興奮する様子が盛り込まれるケースが多い。少しだけ意地悪な見方をすれば、番組を作っているほうも、こうやって驚かれる番組なのだという自覚を隠そうとしない。この番組に出るのはそれなりに凄いことなのだ、という確認作業を、被写体&被写体の周辺&制作者&視聴者で行なっているのだ。
それぞれの放送を平均化すると
だからこそ、「ここからはカメラを止めてほしい」の発生には、様々な思惑が想像される。「1:ただただ、本当に止めてほしいと思った」、「2:『情熱大陸』的にそういうシーンがほしいはずだから、実はそこまでではなかったけど、そう言ってみた」、「3:密着されるうちに、気づかないまま自分の所作が『情熱大陸』モードになっていた」くらいのパターンが想像される。では、その3つのパターンのうち、何が一番多いのだろう。すべて「1」であってほしいものだが、「2」や「3」も一定数あるのではないか。そもそも、ここは撮るなというのは、大御所になればなるほどあらかじめ決められているはずだから、「やっぱりここは止めてほしい」の突然の発生には、むしろ、なにがしかの狙いがあると推察するのが無難だ。
『情熱大陸』のそれぞれの放送を平均化することなどできるはずもないが、無理やり試みると、「自分なんか密着したってしょうがないですよ→自分の仕事へのこだわりを見せる→ルーツや葛藤を知らせる→今、取り組んでいることがある→緊迫感のある場面(ここで登場するのが「ここからはカメラを止めてほしい」)→本番or新作完成or販売→終わった後の一言二言」という感じだろうか。これが一つの型だ。
わざわざカメラに向かってくる矢沢
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