宮武外骨「ヤミウチされるかも知れない」

歴史に名を残す人物たちも、実は「愚痴」をこぼしながら生きていた! 渋沢栄一から夏目漱石、豊臣秀吉にナイチンゲールまで、人生の苦境で言わずにおれなかった愚痴150篇。女性への未練、お金の無心や仕事の焦り、家族への恨みなど現代人と変わらない不平不満です。読めばなぜか勇気がわいてくる、愚痴ノンフィクション! 10月21日発売の新著『人間愚痴大全』より特別公開します。(提供元:小学館集英社プロダクション)

60代、仕事にまつわる愚痴

宮武外骨(ジャーナリスト)

1867年-1955年。明治~昭和前期のジャーナリスト。香川県の豪農の生まれ。本名、亀四郎。『頓智協会雑誌』『滑稽新聞』などを創刊。東京大学に明治新聞雑誌文庫を設置、主任となる。『府藩県制史』『明治演説史』など著書多数。

鋭い社会批評のウラにあった不安

「宮武外骨」という一風変わった筆名を持つジャーナリストがいる。明治から昭和前期に活躍した彼は、たとえば、昭和初期に流行した円本(定価1冊1円均一の全集)に対して

「円本出版屋の怨恨と憎悪を受けて、ヤミウチされるかも知れない」

などと愚痴をこぼしつつ、

「円本は、文芸上の駄作物や、講談という卑俗浅薄の読物類が多い」

「権威ある堅実な著書の売行が減少」

「他の有益な良書に使用し得べき多量の洋紙を浪費し、シカモ洋紙の価格を騰貴せしめて居る」

などなど厳しい攻撃の手を緩めない。

この「一円本流行の害毒と其裏面談」と題された小文は61歳の時の文章である。

 幸い円本出版社からの闇討ちに遭うことはなかったようだが、その一歩手前ともいうような厳しい仕打ちも受けている。なにしろ、生涯で発禁となったことが20回、罰金を払ったことが16回、入獄が2回あったという(諸説あり)。

幼い頃から文才に恵まれていた彼は、19歳にして『屁茶無苦新聞』を創刊。しかし、これが風俗を乱すとして発売禁止となっている。

これに懲りずに、20歳の時には『頓智協会雑誌』を創刊した。しかし、同誌第28号に大日本帝国憲法発布式を風刺して「大日本頓智研法」なるものを骸骨が授与する戯画を掲載。この時代に、天皇が行うことを茶化すのは許されざることだった。これによって「不敬罪」を宣告された彼は、重禁錮3年、罰金100円の重罰に処せられてしまう。

しかし、それでもめげない。34歳になった彼は大阪で『滑稽新聞』を発行。政治家、官僚、悪徳商人などへの風刺、批判を続けていった。これにより、一般市民からは大変な人気を集めたが、権力者からは大いににらまれた。入獄、罰金などの処罰を受け、7年後には廃刊となっている。

それでも彼の筆は止まらず、『筆禍史』『売春婦異名集』『明治奇聞』『猥褻風俗史』など、タイトルを見ただけで問題のありそうな著作をたくさん残していく。

こうして「奇人」と称されることも多くなった宮武外骨。自身も

予は危険人物なり

と語っており、「奇人」とされることを否定はしていない。それどころか

「此世では奇人と凡人と何いずれ方が最も必要であるかと云うに」

「二者に優劣は無い」

として、こうもいった。

「社会の形成は凡人の努力が基礎と成り、社会の進歩は奇人の活躍が根底となる

筆禍を恐れずに「社会の進歩」を願った奇人は、晩年は新聞雑誌等の収集、保存にも功績を残している。

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*本連載は、福田智弘・著『人間愚痴大全』(小学館集英社プロダクションより10月21日発売)をcakes用に再編集したものです。

なぜか、勇気が出てくる。不平不満の150篇。

人間愚痴大全

福田 智弘
小学館集英社プロダクション
2021-10-21

この連載について

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なぜか勇気が出てくる 人間愚痴大全

福田智弘

「今日も飯はうまくない」「アルコールでごまかすより外なかった」 天才と呼ばれる作家に芸術家、世界を変えた政治家に勇猛な武将まで、歴史に名を残す人物たちも、実は「愚痴」をこぼしながら生きていた! 渋沢栄一から夏目漱石、豊臣秀吉に...もっと読む

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