ハト部

後編】羽賀翔一×柿内芳文 週刊連載マンガ『ハト部』完走記念対談

cakesで2021年3月まで連載していた羽賀翔一さんのマンガ『ハト部』。締切を破りがちな羽賀さんに対して「3回休んだら即打ち切り」という無茶振り条件を掲げながら、毎週掲載で一度も休むことなく走り切った羽賀さん。12/22の『ハト部』(上・下 / 双葉社)発売を記念して、連載直後に行った担当編集者の柿内芳文さんとの完走記念イベントトークを記事にしました。(提供:株式会社コルク)

【本対談は、2021年3月19日にクラブハウスで行われたトークイベントを元にしています】

前編はこちらから

キャラクターは身近にいる人たち

志村(noteディレクター 一番思い入れのあるキャラクターは浮かびますか?

羽賀翔一(以下、羽賀) うーん。一年間ずっと一緒にいた感じがするので、誰って決めるのは難しいですね。誰だろうな。柿内さんは誰かいますか?

柿内芳文(以下、柿内) 岡本と壁男(かべお)が好きですよ。実際に両方とも実在しているんですけど。

志村 モデルがいるんですね。

柿内 みんなモデルがいますよ。本人たちが気づいているかはわからないですが、コルクにいたインターンたちです。

羽賀 『今日のコルク』で描いたことがあるキャラクターも何人かいますね。柿内さんも僕もよく知っていて、イメージがわきやすかったので。特徴がすごいあるわけではないのにおもしろいというか、親近感がわいて好きなるところをどんどん掘っていったかんじですね。

柿内 羽賀さんとハト部を始める前に、「理想のマンガってなんだろうね」って話をしていて。それって、中学生くらいのときに、ちょっと絵が上手いやつが教師をデフォルメして描いた4コママンガなんじゃないかなって思ったんですよね。 マンガのためにわざわざキャラクターをつくらなくても、目の前にいる人や、学校の先生をおもしろく描くのが、羽賀さんらしいマンガだなって思いました。ハト部の先生たちは、羽賀さんの母校の先生たちですからね。

志村 え! じゃあバネちゃんも実在するんですか?

羽賀 いるんですよ。あのままのバネちゃんが。しかも兄貴と二人暮らしっていうのも、実話です(笑)。

柿内 全部、実話で成り立っていて。最後の方でパンティが空から落ちてくるのも、実際にあったことなんですよね(笑)。

志村 え?

羽賀 そうなんですよ(笑)。柿内さんの事務所で打ち合わせをしていたら、目の前の庭に誰かのパンティが落ちてきて。なんとなく、このネタどこかで使えよって言われている感じがずっと残っていたので使いました(笑)。

柿内 久々に「パンティ」って言葉を聞きましたからね。

志村 たしかに最近のマンガで、パンティをオチに使うってなかなかないですね。

柿内 そういう実話がネタになっているし、キャラクターは目の前にいた人で、校舎は羽賀さんの母校がモデルです。羽賀さん自身の高校時代の思い出も入っているのが、ハト部なんですよね。

羽賀 マンガを描くということは、僕にとってずっと特別なことでした。だからこそ、すごくおもしろいストーリーで、かっこいい演出があって、魅力的なキャラがいて。いろんな要素が重なり合わないと、いいマンガにはならないという思いが強くありました。なにかすごいマンガが描けるお題ばかりを考えていたんですよね。

だけど、ただ会えるだけで嬉しいっていう気持ちになるような、一緒にいることが楽しいっていう気持ちをマンガで描けばいいんだってことに気づけました。

ハト部を描いて、隣にいる人を描けばいいんだっていうことは、ずっと強く思うようになりましたね。


一点突破の強さを持つ

志村 以前、ファンタジーを描いてみたいと言われてましたが、今もそうした大作に挑戦したいという気持ちはありますか?

羽賀 描いてみたら、結果的にそうなるかもしれないし、ならないかもしれないくらいに考えています。こんなやつに会いに行ってみようって描き始めたら、その人がファンタジーの世界の住人かもしれないし、サッカー選手なのかもしれない。最初にジャンルを決めるということではなくて、出会っていくものなんだろうなって思います。

柿内 編集者からすると、「ファンタジーを描く」ってどういうこと? って思うんですよ。何かを描いたら結果としてファンタジーになるのであって。ファンタジーを描きたいって、本末転倒というか、そもそも描く対象がめちゃくちゃでかすぎますよね。

みんな、でっかいものを描きたいとは言うんです。こんなジャンルのマンガとか、時代を変える作品とか。主語や範囲がすごくでかいことを語るけど、実際は描きたいものが漠然としたままスタートするから、ぼんやりした作品になる。描いたものに、強さが全く出てこないんです。ざっくりと対象と向き合っても、決して強い作品は生まれないんです。

志村 なるほど。

羽賀 「一点突破」という言葉が、打ち合わせノートに書いてありました。クスッとできる一瞬をどう見つけるか。鼻をかむことだけをおもしろくするのが、ハト部の一点突破のおもしろさであり強さでした。だけど、物語を作為的に動かそうとすると、その強さが薄まってしまうことを、僕も実感しましたね。
物語をおもしろく展開していきながら、作者都合を出さないこと。それによって一話の強度を保つこと。これは連載しなければ発見できなかった課題だったし、これからも何度も立ち返りたい課題です。

胴上げのシーンも、次に起こることを考えて描いているときは、強さが出せていなかった。本当は、この胴上げだけをどうやったら一番おもしろく、ハト部らしく描けるかっていう一点で見ないといけなかったのに、俯瞰した描き方になっていたんだなと思います。

ただ、常に目の前のちっちゃなところを見つけて一点突破で描いていくって、けっこう難しくて……。描いているとつい、離れていっちゃう。だから「離れていますよ」って言ってくれる編集者が必要なんですよね。

柿内 僕は、羽賀さんが空中に行ってしまったときに、もうちょっと地上に下りましょうって言っていただけなんですよね。毎週毎週。視野が広くなってしまっていたら、指摘してあえて視野狭窄にする。編集者ができる仕事って、それくらいしかないんですよね。

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ハト部(上)

羽賀 翔一
双葉社
2021-12-22

この連載について

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ハト部

羽賀翔一

イケてるわけでは絶対ない。でもスクールカースト最底辺ってわけじゃない。ぱっとしない僕たちだけど、毎日、ほんの小さなことにも一生懸命なんだ……! 名前以外いっさいの不明の部活動「ハト部」。その部室を中心に巻きおこる、小規模どたばたスクー...もっと読む

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k_marron_k 「ただ会えるだけで嬉しいっていう気持ちになるような、一緒にいることが楽しいっていう気持ちをマンガで描けばいいんだってことに気づけました。」 この羽賀さんの言葉が、とても好きです。 https://t.co/JQ3lUZNSh3 17日前 replyretweetfavorite