ウイルスを狙い撃ちする、とっておきの飛び道具

飛脚役の樹状細胞によって、侵入者の情報が戦闘のスペシャリスト(獲得免疫細胞)に伝えられました。そのうちのひとつキラーT細胞は、感染細胞を見つけ自死を誘導します。もうひとつのスペシャリスト細胞が今回登場するB細胞です。B細胞の得意技は遠隔攻撃。その巧みな仕事を紹介します。

細胞の外にいるウイルスへの対抗手段

これまで、私たちの体の防御システムを掻い潜ろうとするウイルスと、それを迎え撃つ免疫システムの攻防をお届けしてきました。あの手この手を使って増殖しようとするウイルスに対し、マクロファージが死んだ細胞を食べて掃除をし、キラーT細胞が感染した細胞を見つけ出して死を誘導していったのでした。

しかしながらこれらの細胞だけでは対応できないのが、細胞の外にいるウイルスたちです。マクロファージは死んだ細胞に触れると活性化してたいらげてしまいますが、ウイルスだけに触れても活性化することはありません。またキラーT細胞が持つセンサー(T細胞受容体)も、ウイルスそのものを認識して活性化することはできません。

このまま外にいるウイルスを放っておけば、新たな細胞への侵入を許してしまうでしょう。組織の被害を抑えるためにも、なんとかこれを食い止めなければいけません。

このようなウイルスたちに対応してくれるのが、もう1種類の獲得免疫細胞「B細胞」です。B細胞が得意とするのは遠隔攻撃、いわば鉄砲隊のような存在です。そのB細胞が繰り出す弾丸となるのが、今や多くの人が耳にしたことがある「抗体」と呼ばれるY字形をしたタンパク質。この抗体の二股に分かれた部分の先端は、狙った物質に対して強い力でくっつくことのできる性質を持っています。抗体は血液の流れに乗って全身へ運ばれていくので、遠くの組織に対しても効果を発揮します。


B細胞から抗体が放たれる(イメージ図) ©︎Kateryna Kon/Shutterstock.com

しかし実際のところの抗体は、本物の弾丸のようにぶつかって穴を開けてバリバリとウイルスを壊してくれるようなものではありません。それでは対象にくっついてくれることに何の意味があるのでしょうか?

これから2つのキーワード「ガムとふりかけ」を使って抗体の機能を説明していきます。


「鍵」に粘りつくガム!? ウイルスの侵入をストップさせる中和作用 

見出しの「鍵」の文字を目にして、あのタンパク質のことが頭に浮かびましたでしょうか。そう、新型コロナウイルスはスパイクタンパク質(鍵)を、細胞の表面にあるACE2(鍵穴)にくっつけることで中に侵入するのでした。つまりこれを逆手に取り、鍵と鍵穴が合わない状態を作ることができれば、ウイルス感染を防ぐ免疫側の戦略となり得ます。

私たちが新型コロナウイルスに感染した時には、このスパイクタンパク質という鍵に対する抗体が産生されることがわかっています。そしてスパイクタンパク質の構造のうち、ACE2に接触する部分(RBD: receptor binding domain )に対して強力に結合する抗体は、ウイルスが細胞に感染することを防ぐことができます。こうした働きのことを抗体の中和作用と呼びます。わかりやすく言えば、鍵のギザギザ(RBD)にガム(抗体)をくっつけると鍵穴に合わなくなって、ロックを外せなくなってしまうようなイメージです。

抗抗体がウイルスに取りつき、細胞への侵入を妨害する(イメージ図) ©︎Kateryna Kon/Shutterstock.com

中和作用を持つ抗体のことを中和抗体と呼び、新型コロナウイルスに対するワクチンの開発ではいかに中和抗体の産生を効率よく誘導するかが大切な指標の1つとなりました。


美味しいふりかけ。マクロファージにウイルスを食べさせるオプソニン化
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コロナ時代に知っておきたい 免疫入門

新妻耕太

新型コロナウイルスが体の中に侵入すると、何が起こるのか? チームワークを駆使し、ウイルスを撃退していく免疫細胞たち。そして免疫システムの裏をかき、数を増やそうとするウイルス…。巷にあふれる誤情報に惑わされず、正しく情報を判断するために...もっと読む

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s_igel9 これ読んでるんだけど脳内ではたらく細胞に変換されてる…… 7日前 replyretweetfavorite