新型コロナウイルスと戦うスペシャリスト集団の巧みな技

ウイルスの侵入に対して、すぐさま反撃をしかけた自然免疫細胞たち。しかしスピード自慢の自然免疫細胞たちには、ある弱点がありました。より強力な免疫細胞に助けを求めるべく、自然免疫細胞のひとつである樹状細胞が駆けつけます。

ウイルスは第一の防衛隊を突破。次なる作戦は!?

ウイルスが増える勢いを抑えるために先陣を切って登場してくれたのが第一の防衛隊、自然免疫細胞たちです。卓越した大食いスキルを持つマクロファージはウイルスによって殺されてしまった細胞たちをきれいに食べて掃除し、さらには炎症を引き起こして血管内をパトロールしている免疫細胞たちを感染現場へと呼び集めてくれました。

しかしこの自然免疫細胞たち、スピード自慢の戦隊ではあるものの、現れた敵の特徴に合わせた戦闘術を繰り出すことができないのです。よくよく考えてみましょう、死んだ細胞を食べるという技だけでは、すでにウイルスに感染していて今まさにウイルスを大量生産中の生きている細胞への対処はできていないわけですよね。したがってウイルスが自然免疫細胞たちからの攻撃を上回る勢いで増えていけば、もう彼らだけでは戦いに敗れてしまうわけです。

このピンチを乗り越えるため私たちの免疫システムが繰り出すのが、最終手段にして最強の戦闘のスペシャリスト集団・獲得免疫細胞たちなのです。彼らは一般的に登場・活躍するまでに少なくとも1週間の準備期間が必要であることがわかっています。この章ではなぜそれだけの時間が必要なのか?  を理解していただけるように解説していきます。


最強のスペシャリストに敵の情報を伝える「飛脚」 

まずは第2回では触れられなかった自然免疫の3つ目の重要な役割と、それを担う要の細胞をご紹介しましょう。前回名前を紹介したもののまったく触れてこなかった自然免疫細胞がいたことを覚えていますか? その名は樹状細胞です。この細胞は木の枝のようなトゲトゲの構造を持つ形状からこの名がつけられました。


樹状細胞(イメージ図) ©︎Kateryna Kon/Shutterstock.co

少し話がそれますが、生物学の世界でこのような突起構造をたくさん持つ場合は、あるシンプルな共通点があります。それは表面積を大きくしてできるだけ何かとたくさん触れたいところに、この構造があるということです。

たとえば私たちの小腸の内側には柔毛と呼ばれるにょろにょろの構造がありますが、これは腸内を流れる消化物に触れて栄養を吸収しやすくします。植物の根に生える微細な毛である根毛も表面積を大きくすることでより多くの水分・栄養分を吸収できるわけですね。樹状細胞も後に何かに触れることで重要な役割を果たしてくれます。

樹状細胞は自然免疫細胞の一員として死んだ細胞を食べて掃除することも炎症を引き起こすこともできるのですが、マクロファージに比べるとそのレベルはとてもか弱いもので脇役的な活躍しかしません。樹状細胞の活躍の場は自然免疫細胞3つ目の機能である侵入者の情報を獲得免疫に伝えるというところにあります。

ウイルスの勢いが止まらない!  自然免疫細胞ではもう限界だ!  というピンチな状況で、樹状細胞はまるで飛脚のように感染現場を離れて獲得免疫細胞たちの集まっているリンパ節へと情報を伝えに行くのです。

リンパ節では、最強の戦隊・獲得免疫細胞たちが活躍の場を待ってたむろしています。獲得免疫細胞はいわば専門家集団で、1細胞ずつがそれぞれに戦うのが得意な相手がいます。たとえばある細胞はインフルエンザウイルスに対して、ある細胞はノロウイルスに対して、ある細胞はヘルペスウイルスに対して...といった具合です。逆に言えば専門外の敵に対してはまったく役に立ちません。

膨大な種類の獲得免疫細胞たちは血管とリンパ管(いわば体内の高速道路)を使って全身を駆け巡っているのですが、リンパ節は彼らにとってサービスエリアのような場所です。樹状細胞はまるで「ウォーリーを探せ」みたいな感じで、新型コロナウイルスと戦える獲得免疫細胞を探し出さなければいけません。その捜索に役に立つのが、樹状細胞が感染現場で食べて体内に取り込んできたウイルスのかけらです。

樹状細胞は感染現場でウイルスを食べると、ウイルスのタンパク質を細かく分解しペプチドと呼ばれる状態にします。そのウイルス由来の物質を細胞表面に提示することで侵入者の情報を伝えることができるのです。


樹状細胞は獲得免疫細胞に侵入者の情報を提示する(イメージ図) ©︎Kateryna Kon/Shutterstock.co

そしてリンパ節に存在する数々の獲得免疫細胞と触れ合うことで真の専門家を探します。樹状細胞のたくさんの突起は、できるだけ多くの獲得免疫細胞と接触し、目当ての専門家を見つけ出すのに役立っていたというわけですね。

ある時、樹状細胞が伝える情報に合致する(提示している新型コロナウイルス由来のペプチドに反応できる)獲得免疫細胞に触れ合うことに成功すると、その細胞は途端に猛烈な勢いで細胞分裂を繰り返します。これによってウイルスに対抗できるスペシャリスト集団が出来上がるわけです。 

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コロナ時代に知っておきたい 免疫入門

新妻耕太

新型コロナウイルスが体の中に侵入すると、何が起こるのか? チームワークを駆使し、ウイルスを撃退していく免疫細胞たち。そして免疫システムの裏をかき、数を増やそうとするウイルス…。巷にあふれる誤情報に惑わされず、正しく情報を判断するために...もっと読む

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コメント

ikb この方、ひじょうに文章が巧みだなあ。わかりやすい。 19日前 replyretweetfavorite