新型コロナウイルスに感染した細胞の対抗策

体の中に侵入し、細胞内で稼働しているシステムを利用して数を増やし始めたウイルス。しかし、私たちの体もこの事態を黙って見過ごすわけではありません。まずは感染された細胞が警報を発するところから、ウイルスへの反撃がスタートします。

ウイルスは自らの力のみでは増えることができず、私たちの細胞に侵入して細胞のシステムを利用することで増えていきます。

新型コロナウイルスに感染した細胞たった一個からでも万単位の新しいウイルスが作られると考えられています。ウイルスは電子顕微鏡を使うことで観察することができるのですが、細胞からウイルスが一斉に飛び出してくる様子は恐怖を感じます。これを見るだけでも感覚的に「新型コロナウイルスに感染したくないな」という気持ちになると思います。


新型コロナウイルスに感染した細胞の電子顕微鏡写真 ©︎National Institute of Allergy and Infectious Diseases (NIAID)

この急激なペースで「細胞に感染して増える」サイクルが止まらずに続いていけば、やがて私たちの体はボロボロに傷つき命がついえてしまいます。これを食い止めてくれるのが私たちの体に何重にも備えられたセキュリティシステム「免疫」なのです。

じつはこの感染した細胞、ウイルスにただただやられているだけではないのです。なぜなら私たちの細胞には、異常事態を察知して警報を出すシステムが備わっているからです。

新型コロナウイルスは自らの体の設計情報をRNA(リボ核酸)という物質で格納しています。細胞に侵入した新型コロナウイルスはまずRNAを自分の殻から放出して、この設計書を大量に増刷するのです。

一方私たちの細胞には、細胞内で異常に増刷されたウイルス由来のRNAを感知するセンサーが備わっています。このセンサーが異常事態を察知するとI型インターフェロンと呼ばれるタンパク質が製造され、細胞の外へと分泌されます。これは細胞が「自分はウイルスに感染されています!」というメッセージを周囲に伝える意味の警報なのです。

この警報を受け取った周囲の細胞は、近所でウイルスが悪さをしていることを知って、彼らが増えにくくなるような細胞内環境に整えます。I型インターフェロンのように周囲の細胞に状況を伝える役割をするタンパク質のことを情報伝達物質(サイトカイン)と呼びます。

前回学んだウイルスを細胞内に呼び込んでしまうのもタンパク質、危険を伝えてくれる警報もタンパク質ということで、いかにタンパク質が私たちの体の中で多様な機能を担っているか感じ取っていただけるのではないかと思います。サイトカインはのちに登場する免疫細胞同士がコミュニケーションを取り合うための要となる物質です。

増え続けるウイルスに対抗するため、感染した細胞は警報を発するだけではなく自らの死を誘導するという手段を取る場合もあります。悲しいことですが、その細胞が死んでしまうことでウイルスの生産はストップできるので体全体でみたときの被害を抑えることができるのです。

新型コロナウイルス感染症に関しても、最初の警報物質「I型インターフェロン」がいつ・どのくらい作られるか、そして重症度との関連性などに大きな注目が集まり研究されています。I型インターフェロンが適切なタイミングで十分な量を出せない場合は重症化しやすい傾向が見出されていたり、新型コロナウイルスがI型インターフェロンの産生を抑えてしまうメカニズムを持っているといった報告も出てきています。この警報物質を外から薬として補充してあげることが、治療戦略の1つともなりうるので、今後もさらなる研究が行なわれていくことでしょう。


異物を食べて掃除する免疫細胞 

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コロナ時代に知っておきたい 免疫入門

新妻耕太

新型コロナウイルスが体の中に侵入すると、何が起こるのか? チームワークを駆使し、ウイルスを撃退していく免疫細胞たち。そして免疫システムの裏をかき、数を増やそうとするウイルス…。巷にあふれる誤情報に惑わされず、正しく情報を判断するために...もっと読む

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nutrition2004 Reading: #スマートニュース 27日前 replyretweetfavorite