女武士にも忍び寄る結婚の重圧―『平家物語』6

物語の神は言った、「男が中心に存在してこそ正しい物語である」と。そんな神の支配する世界に生きる内気な姫さよと、勝気な姫ごうは今度は『平家物語』の中にいた。義子は平穏な生活をやっと手にしたと思った矢先、嫁入りの命令が下るのであった。懸命に措置を避けようとする義子だが、その願いは聞き届けられない。河出書房新社から本日発売、雀野日名子さんの痛快エンタメ小説をお届け。(提供元:河出書房新社)

【女人たちの終止符】

検非違使の人事変更は、庁内の官職によって着々と進められていく。河越家との縁組が破棄になったとしても一ヶ月の後には、検非違使庁での義子よしこの居場所はなくなるのだ。義子はせめて、自分が進めてきたことを引き継いでくれる者を後任者にしたかった。だが朝廷を完全に離れることになる義子には、新体制への発言権などなかった。


民たちの反応は分かれていた。女人はしょせん職務より嫁ぐほうを選ぶのだと失望を露わにする声。職務を続けて婚期を逃すより嫁ぐほうが幸せなのだという声。そもそも検非違使のような男の職務と、妻や母や嫁としての務めは両立できるものではなく、両立させたいなら宮中で女房として仕えるか、機織はたおりや縫物師になるべきだとの声も耳にした。

この頃になって義子の縁組を知った静は、義子を詰った。

「なぜ言いなりになる! そなたには弓矢も学問も官位もあるのに、なぜじゃ!」

静は頼朝と河越家に呪詛を吐き、迎えの一行が来たら皆殺しにすると宣言した。さらに、地道な基盤づくりを義子にさせるだけさせて、軌道に乗ったら自分たちの好きに動かそうとする検非違使庁に火を放つと言い、それを後押しした後白河の狸爺を問い詰めてやると、義子が止めるのもきかずに法皇邸へと乗りこんでいった。

そんな折、義子は巴御前ともえごぜんが都はずれで身柄確保され、鎌倉へ移送されると知った。巴とはかつて敵軍の関係にあったが、同じ女の武人として話をしたく面会に出かけた。そして目を疑った。

戦で見た巴は筋骨隆々として大柄で、顔つきは獰猛で髪はまるでわらという闘神そのものだった。だが牢のなかの巴は色白で髪は長く艷やか、上背はあるがほっそりとし、目鼻立ちは非常に美しい。戦場だったから鬼神のように見えたのだろうか。いや、何かがおかしい。何かが。

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かぐや姫、物語を書きかえろ!

雀野日名子
河出書房新社
2021-11-02

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かぐや姫、物語を書きかえろ!

雀野日名子

物語の神は言った、「男が中心に存在してこそ“正しい物語”である」と。 そんな神の支配する『竹取物語』の世界に生きる内気な姫さよは、帝の后選びの場で勝気な姫ごうに出会う。自由を求め物語の神に反旗を翻した二人は、『源氏物語』から『平家...もっと読む

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