男社会で生きる女性武士の苦悩―『平家物語』2

物語の神は言った、「男が中心に存在してこそ正しい物語である」と。そんな神の支配する世界に生きる内気な姫さよと、勝気な姫ごうは今度は『平家物語』の中にいた。さよこと源義子は男社会の中の女性武士として役割をこなそうとするが、世間の風当たりは強く厳しいものであった。辛い生活の中で義子はとある白拍子と知り会う。11月発売予定、雀野日名子さんの痛快エンタメ小説を、いち早くお届け。(提供元:河出書房新社)

鎌倉の頼朝から義子よしこに指示のふみが届いた。平氏軍を一ノ谷で追討せよというものだ。その次は屋島で戦い、最後は壇ノ浦で平家を滅亡させよと。敵軍の動きを先読みしているというより、源平戦の展開を把握しているかのような文面だった。

頼朝とはいまだ会ったことがない。十歳で都を離れて東国の寺に預けられていた義子に、小隊を与えるので平氏軍と戦えという指示が下されたのも、文を通じてだ。

「では私たち補助部隊からめて丹波路たんばじから平家陣営の背後に回り、お兄上の大手軍は山陽道から真正面から敵陣に向かう段取りで、細部を詰めましょう」

「山陽道を通れというのは、頼朝兄のご指示か?」

腹心たちをはべらせた範頼のりよりは、義子に疑い深そうな目を向ける。五歳違いの異母兄で、主要部隊を任されている。しかも義子の部隊を牛耳る梶原景時かげときと懇意である。

「お兄上にも、同じ指示が出ていると思うのですが……」

「指示の話をしているのではない。わしらに標的になれと言うのかと聞いておるのだ」

二手ふたてに分かれて敵陣を挟み撃ちにする場合、正面から攻める大手軍が敵を引きつける役割を担うのは基本中の基本だ。にもかかわらず範頼が神経をとがらせるのには理由がある。彼は前回の合戦で乱闘騒ぎを起こし、頼朝に厳重注意を受けている。加えて合戦の報告に不備があり、頼朝から差し戻されている。これ以上の失態は許されないのだ。ちなみに、報告で最も高い評価を受けたのは景時だった。義子がまとめた報告の文を丸写しして頼朝に送ったようだ。

「どうなのだ、わしらに標的になれと言うのか?」

合戦開始やあわせは七日のの刻と定められています。それまでの道中、平家に標的にされることはありませぬ」

「断言できるのか? 奇襲があればそちが責任を取るのか? 女人にょにんに責任が取れるのか?」

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

かぐや姫、物語を書きかえろ!

雀野日名子
河出書房新社
2021-11-02

この連載について

初回を読む
かぐや姫、物語を書きかえろ!

雀野日名子

物語の神は言った、「男が中心に存在してこそ“正しい物語”である」と。 そんな神の支配する『竹取物語』の世界に生きる内気な姫さよは、帝の后選びの場で勝気な姫ごうに出会う。自由を求め物語の神に反旗を翻した二人は、『源氏物語』から『平家...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

Tweetがありません